▽2剤が交渉対象になったDOAC(経口抗凝固薬)とSGLT-2は市場価格差を臨床的優位の反映とみる

▽競争市場で正味価格は十分低くても20%引きに−国際チームのシミュレーションだ


【出典】 Sean D. Sullivan, et al. Integrating price benchmarks and comparative clinical effectiveness to inform the Medicare drug price negotiation program, Value health 2024年8月16日(online )
Inmaculada Hernandez, et al., Price benchmarks of drugs selected for Medicare price negotiation and their therapeutics alternatives, J Manag Care Spec Pharm. 2024年8月




 民間医療技術評価機関ICER(臨床的・経済的評価研究所)のS.K. エモンドCEOは、最初の価格交渉結果の詳細不足を嘆きながら、抗凝固薬「エリキュース」と「イグザレルト」の最大公正価格(MFP)はICER試算値に近く、価値に基づく価格と満足を語った。


 療法がもたらす余命延長を質調整しないevLYベースの増分費用効果分析は、「ワルファリン」比較で月195〜280ドルと175〜262ドルの上乗せを推奨した。ジェネリック月11ドルを加えると、231ドルと197ドル、MFPは中央にあり、エリキュースが17%高い。第1世代の「ダビガトラン」との臨床比較はC+、イグザレルトは同等Cで上乗せなし、相応の価格差をICERは推奨した(24年7月1日号連載151回参照)。


 これに対して、カリフォルニア大学サンディエゴ校、ワシントン大学、LSEのチームによる一連の分析は、メディケア&メディケイドサービス庁(CMS)による最初の価格提示(IPO)を241ドルと209ドル(2021年値)と見立てた。


 製薬会社への提案では、交渉の出発点IPOをどう設定するかだった。チームは、ICERのネットワーク間接比較を参照したが、余命1年増の合理的な費用の従来手法より、正味価格など価格ベンチマークを見定め、CMSプロセスに沿ってIPOを推定した。


 4製剤のIPO推定法を見たが(この章②③)、 残り6製剤は、血栓塞栓・心房細動予防薬2剤とインスリンを含む糖尿病用薬4製剤だ。前者のエリキュースとイグザレルト、後者の「ジャディアンス」と「フォーシガ」はともに同じ薬効群で、上市時期でも差があまりない製剤が同時交渉される先例になった。


 臨床的に少しハンディのあるイグザレルト、フォーシガのIPOをまず推定し、比較有効性情報で優位な2剤は、比較対照との市場価格差には優位度が反映されており、エリキュース15%、ジャディアンス23%上乗せ、32ドル、36ドルの価格差を採択するIPOプロセスだったと推定した()。



 あくまでシミュレーションであり、続く製薬会社との交渉も今のところ機密だが、最終MFPはエリキュースが+17%、ジャディアンス+10%と後者で縮んだ。


 2021年の市場シミュレーションは、リスト価格511ドルのエリキュースの法定最大許容額()は309ドル、さらに低い309ドル正味の価格(〇)がシーリング価格になったが、メディケア節減分として22%低い241ドルがIPO(なると推定された(図1)。



 イグザレルトの代わる療法はワルファリン、ジェネリック製剤と異なる作用機序、投薬管理、患者コンプライアンス要件の違いが+250ドルのIPOになる。明快な差があるACE/ARB製剤と比べられた「エントレスト」(この章③)と同じプロセスで、イグザレルト正味価格は十分に低いが、節減を求めてシーリングから20%引きが求められるはずだ。


 一方、フォーシガは同じSGLT−2ジャディアンスをIPO設定の指標に使えない。ネット価格が高い。フォーシガはすでに十分に低い。節減確保の20%引きが推定IPOになる(図2、3)。


「ジャヌビア」はDDP−4からGLP−1まで広いタイプの製剤が代わる療法になる。正味価格はリスト比39%と低く、比較対照の正味価格はフォーシガを除いて高い。正味20%引き対象になる(図4)。


「ノボログ」は1月に75%のリスト価格引き下げがあった。比肩される「インスリン・リスプロ」と同じ価格水準だが、IPOは更新リスト価格より少し高い。