時感

「いちいちごくろうさん」


 静岡市駿河区にある久能山東照宮。江戸幕府初代将軍の徳川家康を祀り、行かれたことのある方もいらっしゃるだろう。日本平までバスや車で上がり、ロープウェイに乗って向かうのがガイドブックなどにあるポピュラーな行き方。だが、本来海側にある石段を上ってくるのが久能山東照宮にとって“正面”になるそうだ。久能山下にある石鳥居から東照宮までの石段は上ること1159段。その数に因み、「いちいちごくろうさん」とも言われ、大人の足でざっと20分はかかる。


 こちらが“正面”になるため、久能山東照宮の神職は、老いも若きも、晴れの日も雨の日もこの石段を上り、通うそうだ。「この石段が上れなくなったら、久能山東照宮の神職からは退く」。そんな習わしを久能山東照宮の神職が親戚だという地元の人が教えてくれた。


 思えば記者という仕事も非常に似ている。日々、ネタを追いかけ、取材し、記事にする。この繰り返しだ。さながら久能山東照宮の石段を上るがごとく、自らの手と足と頭を動かしてやっと進むことができる。逆に言えば、そうしなければ目的地にはたどり着かない。年に関係なく、自ら動けなくなったらおしまいという世界なのだ。


 しかし、石段の途中で駿河湾の絶景が目に入るように、記者稼業を続けているとハッとさせられることが何度もある。恐らくその時のためにこの仕事をしているのだろう。もちろん面白いネタを掴み、追いかけ、記事にする時に出るアドレナリンも大好物なのだが……。


 不惑を過ぎ、縁あって8月から医薬経済社に加わりました。久能山東照宮の石段は1159段ですが、幸か不幸か記者という仕事は自分次第。80段にも1万段にもなります。どこまで上れるのか、まったくわかりませんが、持てる力を振り絞り、突き進んでいきたいと思います。(吉水)