医療現場のニーズと民間企業のシーズをマッチングし、新たな技術や製品を生み出そうーー。そんな取り組みは、今までも数多く進められてきた。ただ、これといっためぼしい成果が出てこなかったのが正直なところではなかろうか。そんななか、横浜市立大学はこれまでになかった切り口で挑もうとしている。


熱気のこもったメディカル&ケアテックパートナーリングカンファレンス


「参加者の皆さんが面白がってくれた。思った以上にたくさんの提案が寄せられた」


 8月に初開催した「メディカル&ケアテックパートナリングカンファレンス」に関して、同大共創イノベーションセンターでプロジェクト推進部門長を務める増田和成特任教授はこんな手応えを掴んでいる。増田特任教授はこの企画の担当者。医療現場の課題やニーズを示し、企業から解決策などを提案してもらい、新技術や新製品の創出に結び付けようというのが狙いだ。


 しかし、ひと味違うのが、横浜市大発ベンチャーのCROSS SYNC(横浜市金沢区)を除けば、同カンファレンスで発表したのがいずれも看護師や薬剤師、臨床工学技士といった医療支援スタッフ、いわゆる「コメディカル」だったこと。同大附属病院の薬剤部や臨床検査部、臨床工学センター、看護部から部長らが参加し、それぞれ現場で抱えている“困りごと”を訴えた。


 例えば、薬剤部は「医療現場での薬剤師の課題」をテーマにプレゼンテーションを行った。服薬指導をはじめとする対人業務に力点を置くため、持参薬の鑑別といった対物業務をいかに効率化するかが課題となっていることを示したうえで、デジタル技術利活用の余地が大きいことを紹介した。臨床検査部からは4人が参加。もっぱら紙によって行っている受検者の予約や、検体を管理するためのシステムを企業と共同開発したいなどとした。


 臨床工学センターは、「臨床工学技士の課題」「医療機器管理データを活用した保有機器の最適化」について。メンテナンスや更新・購入計画を最適化するニーズが高いとし、企業と連携の可能性を探る。看護部も看護部長らが、「看護×医学×企業で目指すケアイノベーション」などを演題に、現場の実情を語った。


「そもそもコメディカルのニーズを出すことはほぼない」。増田特任教授は、大きな反響を呼んだ理由をこう説明する。産学連携という言葉が人口に膾炙するようになって久しいが、医療関連の場合、課題やニーズについて話すのは医師、あるいは看護師であることがほとんど。大学病院の薬剤師や臨床検査技師、臨床工学技士が前面に出てくるケースはそう聞かない。


「コメディカルとの接点は限定的」(増田特任教授)というなかで、これまでになかった観点から医療現場の実態を知ることもできるため、企業にとっても興味深いイベントだったであろうことは想像に難くない。製薬や医療機器に限らず、エレクトロニクスや化学、繊維などさまざまな業種・業界から多くの提案が持ち込まれているという。そもそも8月のカンファレンスでは現地、オンライン合わせて250人程度の参加を見込んでいたが、それを上回る申し込みがあったということも証左となる。