抗原抗体反応を利用して抗原や抗体を検出・定量する免疫測定法は、正確な臨床診断や環境モニタリングなどに重宝されている。ただ代表的なELISA法などは、未反応のプローブを除去する洗浄操作なしには十分な感度を得られないため、ノウハウが必要で時間もかかる。反応した場合だけ光ったり変色したりするようなプローブをつくれたら、洗浄操作を省けて簡単・迅速に結果を得られることになるが、そうした開発には標的分子ごと個別かつ緻密に分子設計する必要があり、それもまた膨大な労力と時間が必要だった。
そんな常識を覆し、市販の抗体と混ぜるだけで標的抗原の免疫測定が洗浄操作なしに可能となる汎用プローブ「OpenGUS」を開発、実際に抗体を入れ替えて、日本スギ花粉アレルゲンCryj1とヒトC反応性タンパク、ヒトラクトフェリンについて、蛍光と色変化の両方で高感度な検出・定量に成功したとの論文が、9月の『Biosensors and Bioelectronics』誌に掲載された。例えばCryj1に関しては、ELISA法で3時間必要だった測定が15分で完了したという。
開発されたプローブは、4量体で活性型となる酵素β-グルクロニダーゼ(GUS)を、哺乳類全般の抗体定常領域と結合するペプチド(Zドメイン)と適切な距離を離して連結したもの。検査の前に混ぜる抗体をZドメインが捕まえ、その後の検査時にはZドメインに捕まった抗体と標的抗原が結合した場合のみGUSは酵素活性のある4量体となって、同時に加える基質を光らせたり変色させたりする仕組みのため、未反応のプローブを除去する必要がない。また、コードしたプラスミドDNAを大腸菌に導入して産生させるため、化学修飾不要で大量生産に向く。いずれも大量の検体処理に適した性質だ。
開発を主導したのが、東京科学大学総合研究院(論文掲載の9月時点では東京工業大学科学技術創成研究院)化学生命科学研究所の北口哲也准教授(写真)だ。蛍光タンパク質をセンシングプローブとする生体イメージングの研究と並行して、プローブや測定系の開発・改良にも取り組み、さまざまなプローブ(コードするプラスミド)や測定系、センサー発現細胞を生み出してきた。