大手企業のライセンスイン


 アッヴィは6月13日、中国のバイオ企業「明済生物」(Future Gen)と、炎症性腸疾患(IBD)治療薬の次世代TL1A抗体で前臨床開発段階の「FG-M701」を開発するためのライセンス契約を締結した。


 FG-M701は、IBDに対する療法として、より大きな有効性とより少ない投与頻度をもたらすことを目標に、第1世代TL1A抗体よりも優れている可能性の高い機能的特性を持つよう独自に設計されているという。


 契約によると、アッヴィはFG-M701の開発、製造、商業化の独占的グローバルライセンスを取得する。一時金として1億5000万ドル及び開発、商業化マイルストーンとして15億6000万ドルを明済生物に支払う。


 武田薬品は6月14日、中国のバイオ企業である亜盛医薬(Ascentage Pharma)と、白血病治療薬「オルベレンバチニブ」の独占的ライセンス取得に向けたオプション契約を結んだと発表した。同剤は、慢性骨髄性白血病(CML)とその他の血液がんを対象に開発が進められており、オプションを行使すれば、中国本土、香港、マカオ、台湾、ロシア以外の地域で、同剤の開発及び商業化に関する権利を得ることになる。


 武田薬品は、契約一時金として1億ドルを支払うほか、マイルストーン及びロイヤリティとして最大で約12億ドルを支払う可能性がある。オルベレンバチニブはCMLなどの治療薬として中国では既に承認されており、グローバルでの最終段階の臨床試験が行われる予定だ。


 アストラゼネカは10月7日、中国の医薬品企業「石薬集団」(CSPC)と独占ライセンス契約を締結した。この契約の条件として、アストラゼネカは、石薬集団の前臨床候補低分子であり、経口投与可能なリポ蛋白阻害薬「YS2302018」を用いて、単剤または経口低分子PCSK阻害薬である「AZD0780」との併用を含む、様々な心血管疾患の適応の可能性がある、新たな脂質低下療法として開発することをめざす。


 アストラゼネカは石薬集団に前払い金1億ドルのほか、開発及び商業化の目標達成と段階的ロイヤリティとして最大で19億2000万ドルを支払う。同社は、「このライセンス契約は、心血管疾患における未解決のニーズに取り込むという我われのコミットメントと一致している」と期待している。


 前述のとおり、今年の10億ドル以上のライセンス契約事例を簡単に紹介したが、次に、23年以降、日本の製薬企業が中国企業からライセンスインを行った事例を見てみたい。


 武田薬品は23年1月24日、チロシンキナーゼ阻害薬「フルキンチニブ」について、中国のバイオ企業の和黄医薬(Hutchmed)と中国を除く全世界を対象とした開発・商業化に関するライセンス契約を締結した。武田薬品は和黄医薬に一時金として4億ドルを支払うほか、開発などの進捗に応じたマイルストーン報酬として、最大約7億3000万ドルを支払う可能性がある。


 フルキンチニブは「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」を効能または効果として、厚生労働省より製造販売承認を取得している。


 エーザイは23年5月8日、ADCの「BB-1701」について、百力司康生物(BlissBio)と戦略的提携に向けたオプション権を有する共同開発契約を締結した。


 BB-17011は、エーザイ創製の抗がん剤「エリブリン」を、リンカーを介して抗HER2抗体に化学結合させたADCである。これは18年に締結した契約に基づいて独占的開発権を持つ百力司康生物は現在、中国と米国においてHER2を発現した固形がんが対象の臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験を実施している。


 エーザイは同試験の状況を踏まえ、新たに共同開発契約を締結。エーザイは追加一時金や開発・薬事マイルストーンなど、最大で総額約20億ドルを支払う。


 アステラス製薬は23年12月28日、次世代がん治療薬の共同研究などで中国の科望医薬(Elpiscience)と契約を結んだと発表した。科望医薬は免疫細胞の「マクロファージ」の貪食作用を活性化させる抗体薬の研究開発を進めている。貪食作用とは、がん化した細胞などを不必要と判断して取り込み、消化、分解すること。アステラスはオプション権の行使により、プログラムについて研究、開発、製造、商業化の独占的な権利を取得できる。契約一時金とライセンスのオプション料を含めて最大で3700万ドルを支払う可能性がある。


 大鵬薬品は24年3月1日、中国の海和薬物(Haihe Biopharma)が開発した非小細胞肺がん治療薬「グマロンチニブ」について、同社と独占的ライセンス契約を締結した。大鵬薬品が同剤の日本、アジア(中国を除く)、オセアニアにおける独占的開発、製造・販売を行う。契約一時金や開発及びマイルストン、売上げに応じてロイヤリティを支払う。


 かつて医薬品の模倣大国といわれた中国は、現在、創薬大国をめざしている。19年に中国発の新薬として初めて米国で承認を取得したことを機に、多くの医薬品が日欧米で承認されている。今後、中国企業によるライセンスアウトはさらに増えるだろう。