この度の総選挙では自由民主党と公明党の両党が大敗し、過半数割れを喫したことで、政治情勢が不安定化している。本稿執筆時点では、自公両党が少数与党での政権継続をめざしつつ、国民民主党と政策単位で連携する部分連合の形成が濃厚になっている。それ以外の可能性も含めて、どのような政権枠組みになるのかを未だ断定することはできないが、如何なる組み合わせになるにせよ、安定した多数派を形成できない以上、政局は流動化せざるを得ない。
自民党に対する逆風は「政治とカネ」の問題に起因しており、それ自体に石破茂首相の関わりはないけれども、むしろこの問題をクローズアップさせ続けたのが石破首相だと言える。石破政権が誕生した後も、所謂「裏金議員」の公認問題で党内に混乱を来し、非公認候補への2000万円支給問題が火に油を注ぐ結果となった。
国民の高い支持が期待されていた石破首相の下でも、支離滅裂な対応が続いていることに対し、国民のあいだで一気に幻滅が広がっている。それは、まるで旧民主党政権に熱狂した国民が稚拙な政権運営に冷め切ってしまったのと同様に、これまで党内野党だったからこそ可能であった石破首相らしさの実態が、現実を前にすると幻想に過ぎなかったことが明らかになり、政権誕生後、1ヵ月も経たないうちに国民に嫌悪感を抱かせる結果となったのである。
しかも、より重要なことは、石破政権の混迷は「政治とカネ」だけで起きているのではなく、政権運営全般に見られる点にある。石破首相は「後ろから鉄砲を撃つ」と言われてきたが、今や、過去の自分に鉄砲を撃たれている状態だ。やることなすことちぐはぐで、一体何をしたいのか、伝わらない。
仮に支持率上昇をめざして、石破カラーを鮮明し、これまでの自分の発言と辻褄を合わせたり、無理にそれを押し通そうとしたところで、現実的には決して上手くいかない。
他方で、石破首相は総選挙翌日の記者会見で、議席を伸長した政党の主張を「取り入れるべきは取り入れる」と述べているが、野党に迎合して政権を維持しようとしたところで、いずれ行き詰らざるを得ないのも明白だ。
安倍晋三元首相は、元来の保守色の強さにかかわらず、政策のウイングを広げて、長期政権を実現した。しかし、石破首相のウイングは広げようにも、折れてしまいそうで、安定していない。総選挙の勝敗ラインを「自公過半数」に設定していながら、それを割っても責任を取ろうとせず、見苦しささえ感じられる。
こうしたなかで、野党の政策を取り入れても、政権の延命目的だと見透かされれば、むしろ逆効果であり、そもそも望ましい政策につながる保障さえない。
来年夏には参議院議員選挙を控えており、その前には来年度予算の国会審議もある。石破首相のままでは持たないとなれば、自民党で党内抗争が激化する可能性も高まる。国会でも、少数与党では予算や法案を通すための調整に手間取り、政策がなかなか決まらないという事態も招来しかねない。
今後、さまざまな駆け引きが繰り広げられることになるであろうが、これからの政局がどのような展開になるにせよ、石破首相の下での政権運営にあまり多くを期待することは難しい状況である。