田中部長名文書の問題
患者会が公開質問状を出した直後の2月7日、寄付講座閉鎖で岡本医師の治療を受けられなくなった高リスク前立腺がん患者7人と岡本医師が滋賀医大に対して治療妨害の禁止命令を出すよう大津地裁に仮処分申立てを行った。その審理において滋賀医大は、岡本医師の患者のカルテ調査の結果を証拠提出する。それは、「小線源療法に関連した有害事象と再発事例調査経緯について」と題する田中俊宏・滋賀医大病院医療安全管理部長名の文書(19年3月8日付)である。
その文書によれば、小線源治療に関するインシデントが泌尿器科と消化器外科から計3例(17年4月11日付と同年6月〜8月)報告され、医療安全監査委員会の問題提起を受けて、小線源治療の有害事象に関する調査を行うことになったとされる。文書には、19年2月の医療安全監査委員会に報告された院内調査(滋賀医大病院で05年以来行われた小線源治療1050例対象)の結果と今後の予定が以下のように記されていた。
「1050例中20例に患者影響度の大きい有害事象を認め、2次発癌の可能性が強く疑われる2例を含めた18例(1.7%)に関しては小線源療法の関与が疑われた」
「今後上記症例における有害事象の施術に関連した外部調査委員会を開催し、外部の専門家による検証を行う予定である」
医療安全管理部長名の文書が裁判所に提出された後、岡本医師は塩田浩平学長と田中部長に対し、文書の記載内容の問題点を指摘し、求釈明と申入れをする文書(19年4月1日付)を送った。その文書で岡本医師は、インシデント報告などについて次のように指摘した。
①私及び一緒に小線源療法を実施している河野医師は、医療安全管理委員会から3例のインシデント報告や1050例の内部調査についての事実確認等を一切受けていない。
②17年4月11日付で泌尿器科が報告したインシデントについては松末病院長から後日医療安全管理委員会から直接問い合わせがあると言われたが、その後も問い合わせを受けたことがない。
③私の代理人弁護士からの質問に対する回答で言及されていた2例のインシデント報告のうち、泌尿器科から報告があったと思われる放射線尿道炎の症例は、小線源講座のインシデントでない旨代理人弁護士の書面で回答している。泌尿器科は当該症例を重篤な放射線尿道炎と診断したが、その後、当該患者は他の医療機関で膀胱がんと診断された。泌尿器科の誤診により膀胱がんが進行、リンパ節転移が生じ、膀胱全摘に至った。これをインシデントとするなら、泌尿器科によるインシデントとされるべきものである。
④このようなインシデント報告に基づき、私の担当患者について調査が行われたことは異例の対応であり、泌尿器科が私のことを敵視していることは大学内では周知の事実であるにもかかわらず、有害事象の抽出を泌尿器科に行わせていることに驚きを隠せない。
岡本医師はこの文書で、①医療安全管理委員会に3例のインシデント報告があった際、委員会が自分と河野医師に事実関係の確認と意見聴取をしなかった理由、②小線源治療は自分と河野医師の2名体制で実施してきたにもかかわらず、医療安全監査委員会が「専門医1名により実施」と評価した理由、③1050例の調査を自分に知らせることなく実施した理由、などを明らかにするとともに、小線源療法の関与が疑われる有害事象が発生したとされる症例について自身の見解を述べる機会を与えるよう求めた。
滋賀医大病院はこの後、小線源治療に関連した有害事象の可能性が考えられる症例の評価を外部医師に依頼する。その評価結果をまとめたとされるのが「滋賀医科大学医学部附属病院事例調査検討委員会報告書」(19年8月)である。
同報告書によれば、評価対象の21事例中13事例で外部委員の意見が一致し、重篤な合併症と認められた。重篤な合併症と判断されたのは、直腸出血、血尿、骨盤内感染、放射線尿道炎の4つで、これらは「事前の説明と同意が必要な合併症」と判断された。小線源治療による2次発がんについては判定不能だが、その可能性は事前に説明しておくべきとの指摘が外部委員2名からあったとされる。
報告書には「係争のために利用されることを目的としない」と明記されていた。しかし、滋賀医大と河内教授らはこの記載に反して、報告書を裁判所に証拠として提出するのである。