大統領に返り咲くドナルド・トランプが産業界の要請に関心を寄せるか定かでない。高薬価が社会問題化していた8年前、ビッグ・ファーマの「やりたい放題」を激しく批判したが、今回は言及を避けた。第1次政権で、大統領命令で指示した国際参照価格制を紹介するビデオを選対本部は夏に取り下げた。薬価抑制の努力は続けると約束しながら。
議会共和党の多くは薬価交渉が新薬イノベーションを損なうという危惧を共有する。誰一人IRAに賛成票を投じなかった。しかし、政府の薬価交渉権を確立したIRA廃棄には高い壁がある。IRAのもうひとつの柱、気候変動条項の未使用資金はすべて回収して止めると明言しているのに、薬価交渉にトランプはコメントしてこなかった。
保守派シンクタンクのヘリテージ財団の「プロジェクト2025」も、共和党全国委員会のプラットフォームもプログラム廃棄をうたったが、トランプ側近は「新大統領が縛られることはない」と語る。
気候変動条項の廃棄に共和党政権・議会が優先課題としてIRAを選び、メディケア薬価・薬剤費政策に波及する可能性はある。しかし、交渉薬価による10年1,000億ドルの歳出削減効果を埋める財源確保が欠かせない(表)。
いったん下げられた交渉価格による負担軽減を患者が経験したら、巻き戻しは難しくなる。2026年1月前の決着が必要になる。
しかも「製薬会社の言うなり」「自由な価格の復活」という印象を与える見直しはポピュリストの大統領の自尊心を傷つけかねない。
上院財政委員長候補M.クレイポ—は廃棄・差し替えを示唆するが、第1次政権の最初の1年、全力を傾けたオバマケア廃棄の試みは「代わる計画」をまとめきれずに苦汁をなめた。下院エネルギー商業委員長候補間には温度差がある。
上院共和党には新興バイオテックの適用除外など部分修正を求める動きがあった。来年に持ち越した薬局給付管理会社(PBM)の規制、リベートを含むビジネスの透明性要件のなかで議会共和党が産業界の意向を汲み、宥める妥協案もある。