脚注から本文も「暖簾に腕押し」
自民・公明・国民民主の政調会長らは、断続的に政策協議を実施。11月20日に経済対策について、3党で合意した。国民民主の看板政策である、所得税の「(年収)103万円の壁見直し」に関しては「25年度税制改正のなかで議論し引き上げる」と明記した。そして11月22日、政府は3党合意に基づき、物価高対策などを盛り込んだ総合経済対策を閣議決定した。
経済対策には、25年度薬価・中間年改定に関する記載も盛り込まれた。政府「骨太の方針2024」で「イノベーションの推進、安定供給確保の必要性、物価上昇など取り巻く環境の変化を踏まえ、国民皆保険の持続性を考慮しながら、そのあり方について検討する」とされていることを「踏まえて検討する」との内容だ。
当初は「脚注」に示す程度の扱いだったが、国民民主の意向を反映し、「骨太を踏まえる」との内容が本文に明記された。
国民民主の玉木雄一郎代表は、本誌に「『あり方を検討』でも、きちんと(本文に)入れたことには意義がある」と強調。財務省の財政制度等審議会が中間年改定の対象拡大を求めているのに対し「『あり方』まで戻してゼロベースで議論するように書いたのは、かなりプラスだ」との解釈を披露した。
そもそも国民民主の主張は「薬価・中間年改定の廃止」であったったため、製薬業界の関係者からは「骨太のまま結論が先送りされただけでは、暖簾に腕押しだ」と落胆の声も聞かれるが、今回の協議は「合意形成プロセスのひとつのモデルになる」(公明党の斉藤鉄夫代表)と、受け止められている。
3党合意には、経済対策の裏付けとなる24年度補正予算案について「年内の早期成立を期す」と記載した。少数与党である以上、今後も「国民民主の出方次第」という状況が続くことになる。
では、国民民主は社会保障改革について、どんな政策を掲げているのか。9月26日、国民民主は医療を中心とした社会保障制度に関連する改革案(中間整理)をまとめた。そのなかで「現役世代・次世代の負担軽減」として、5つの項目を並べている。①年齢ではなく能力に応じた負担、②後期高齢者供出金への公費投入増、③こども子育て支援金の教育国債への転換、④「保険給付範囲の見直し」、⑤薬価・中間年改定の廃止——の5項目だ。
衆院選を意識し、①〜④には「重点政策事項」との文言が付記された。⑤の中間年改定の廃止には、その文言がないが、党社会保障調査会長の田村麻美氏は本誌にこう語った。
社会保障政策を直接担当する田村氏
「中間年改定の廃止は短期的に、社会保障制度改革のなかで(優先順位は)一番。年内に決着しなければ意味がない」
さらに国民民主は、衆院選で公約に「手取りを増やす」と打ち出し、若年層らの支持を集めたが、田村氏は中間年改定の廃止も「つながっている」と説明。以下のような認識を示した。
「医薬品関連産業の皆さんの賃上げ率が低い。原因はいろいろあると思うが、企業の弱体化への影響度合いでいけば、中間年改定が繰り返されていることは直撃している問題だ」
一方で財務省は11月13日、財政制度等審議会・財政制度分科会で、中間年改定について「原則すべての医薬品を対象に」実施し、既収載品の算定ルールを「すべて適用すべき」と主張している。
これに関して田村氏は、医薬品産業が苦境に陥っていることに加え、衆院選での「与党過半数割れ」といった政治情勢の変化があるなかで「財務省が何も主張を変えないこと、疑問を持たないこと自体が疑問だ」と首を傾げる。
さらに医療改革案のなかで、中間年改定廃止を謳った項目には、もうひとつの記載がある。それが「中央社会保険医療協議会の構成を見直し、医薬品関連業種の代表者を加える」提案だ。
これについて、田村氏は引き続き主張していく考えを表明した。中医協の診療側(計7人)に医師(5人)、歯科医師(1人)、薬剤師(1人)という医療機関・薬局経営に携わる職能代表委員が並ぶなか「必要な薬がなければ医療が提供できず、医療機関の経営も成り立たない」と指摘。現在は、限定的に発言が許される「専門委員」の立場で議論に参画しているが、そうではなく、正式な委員として「医薬品業界の代表が入っていたほうがいい」と訴えた。
日本医師会関係者は、こうした主張に警戒感を抱く。
「国民民主党がこれをゴリ押ししてきたら厄介。ただでさえ、中医協で決められる裁量が減ってきているのに、一番多い医師委員が減らされかねない」
冒頭の3党合意では、24年度補正予算だけでなく、25年度予算・税制改正にも触れ「今後とも政策本位の協議を続ける」と記した。決定順は、慣例どおりなら、12月中旬までに与党税制改正大綱、12月下旬までに25年度予算案となるが、国民民主が加わることによって、政府内の作業は遅滞気味だ。
衆院選を経て「決められない与党」と、「決定に関与する国民民主党」という構図が、明確にできあがった。医療・医薬品の関連団体は、与党そして国民民主党と、どう距離を取るかに腐心する。
前述の日医関係者は「国民民主に擦り寄ることはない。いまは静観だ。ただ、これまで以上に力を増したら、なにもしないわけにはいかない」とこぼす。
一方で、ある製薬団体幹部はロビー活動の難しさを口にした。
「中間年改定の廃止を国民民主が訴えていることは大変ありがたい。我われの主張を伝えているところ。しかし、自民党がへそを曲げないように配慮しないといけないから大変だ」