果たす役割が異なる


 各保険者の年報などをもとに、高額療養費の給付額と給付件数を整理してみた。


 直近22年度の総給付額は2兆8500億円で、健保9000億円・国保1兆1400億円・後期高齢者8200億円。総給付件数は6900万件で、健保750万件・国保2020万件・後期高齢者4120万件となる(件数は月単位でのカウントとなる)。21年度と比較すると給付額も給付件数もやや急に伸びているが、これは22年10月(下半期)からの「一定所得以上の後期高齢者の自己負担2割化」の影響が大きい。


 22年度の被保険者数のデータでみると、高額療養費の負担上限額が引き上げられる「現役並み所得者」は、後期高齢者全体の7%(140万人)だが、新たに自己負担が2割になった「一定以上所得者」は20%(380万人)を占める。負担上限額が変化せずに自己負担が1割から2割に変化すれば、制度の適用件数は必然的に増えていく。この構造は、後期高齢者の件数(+27%)と総額(+18%)の伸びが顕著なことからも推察できる。


 総額と件数から1件あたりの金額を求めると、後期高齢者が2.0万円・市町村国保が5.6万円、健保が12.0万円となる(全体の平均は4.2万円)。健保は自己負担額の上限がやや高い分だけ件数は少なくなるが、対象となったケースで絞ると給付額はむしろ高額になった。より精緻な分析には市町村国保・健保についての年齢階級別の評価が必要であるが、「狭く・深く」の若年就業者層と「広く・浅く」の高齢者層とで、高額療養費制度が果たしている役割がやや異なることは、制度の議論の際に見逃せないポイントである。


 近年さまざまな疾患領域で、経済毒性の問題が活発に議論されている。経済毒性は「オカネがなくて治療が受けられず、病状が悪化する」ことのみならず、「何とか治療費を工面できているが、それで手一杯となって健康を損ねてしまう」ことも含む。日本のような公的保険制度が整った国では「このような問題は少ない」のような説も見られた。


 しかし、筆者の研究室の梶本裕介氏らが婦人科系がんの患者を対象に実施した調査では、回答者の84%(109人中91人)に経済毒性が見られ、高齢者よりも若年層のほうが、状態が悪化していた(※)。


 がん治療などで高額な治療が継続する場合、とくに現役世代では上限額が適用されてもそれなりに負担額は大きくなる。組合健保では独自に自己負担上限を引き下げている例も多いが、制度見直しの際には世代ごと・疾患ごとの特性を改めて吟味する必要がある。


※Kajimoto Y, Honda K, Suzuki S, Igarashi A, et al. Association between financial toxicity and health-related quality of life of patients with gynecologic cancer. Int J Clin Oncol. 2023 Mar;28(3):454-467.