今回は、これまで触れてこなかなった高齢者のデータも見ておこう。21年、エドキサバンは従来の承認用量よりも低い「15㎎/日」が、出血リスクの高い高齢者に使用可能となった。この根拠となったのは、日本で行われた第Ⅲ相試験である「ELDERCARE-AF」だ(③)。果たしてエドキサバンはどれほど有用なのか。


 この試験の対象は日本在住で80歳以上だったAF患者984人である。ただし全員、脳塞栓症の高リスクでありながら、出血リスクの観点から従来の承認用量では経口抗凝固薬服用が適切ではないと考えられた。


 これらはエドキサバン15㎎/日群と偽薬群に無作為化され、466日(中央値)観察された。すると主要評価項目の「脳卒中・全身性塞栓症」発生率はエドキサバン群で年間2.3%、偽薬群が6.7%となった(有意差)。治療必要者数(NNT)は「23/年」となる。


 安全性はどうか。最近の試験で安全性の主要評価項目とされることの多い「大出血・要医療対応(入院や輸血など)非大出血」発生率を見ると、エドキサバン群で年間7%の有意高値だった。要害必要者数(NNH)は「15/年」だ。(安全性主要評価項目の「大出血」なら1.5/年の高値傾向のみ)。


 つまりエドキサバンを1年間飲み続けると23人中1人は、飲まなかったら起こっていたであろう「脳卒中・塞栓症」を免れる。しかしあとの22人は、エドキサバンを飲んでも飲まなくても結果に差はない。一方、15人に1人は、飲んでいなければ避けられたであろう「大出血・要医療対応非大出血」を来たす。ちなみに死亡リスクに両剤間の差はない。


 1年間にかかるエドキサバン15㎎の薬剤費は約8万2000円だ。3割負担であれば2万5000円の出費となるが、このリスク・ベネフィットとコスパを知っていても、患者は処方提案を受け入れるだろうか。


①心房細動治療(薬物)ガイドライン(13年改訂版)

②Circ J 2012;76:1840

③NEJM 2020;383:1735