私の担当のセッションでは、元日本航空のキャビンアテンダントで私が理事長を務める医療法人社団鉄医会研修・人材サポート担当の早川明子氏、同ナビタスクリニック小児科で元国立国際医療研究センター病院国際診療部長の杉浦康夫先生、元東京大学及びキングス・カレッジ・ロンドン教授で「Medical Excellence Japan」CEOの渋谷健司先生、株式会社良品計画代表取締役社長から取締役会長になる堂前宣夫氏、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科特任教授の鈴木寛先生に登壇いただき、働き方改革をテーマとしたパネルディスカッションを行った。堂前氏が提案する「経営者は職員に合わせた働き方を提供するべき」という視点は私自身にも大変参考になった。
医薬品関係では、業界の有名人ですでにご存じの読者も多いだろうが、東京大学大学院薬学系研究科准教授の小野俊介先生の発表も毎年好評を博している。今年もドラッグ・ラグの問題を取り上げられ、独特の風刺とユーモアを交えた語り口でわかりやすく日本の苦境を紹介して頂いた。
曰く、ドラッグ・ラグは、国際的な医薬品開発におけるコスト、利益、成功確率の不均衡から生じる現象であり、企業の利潤最大化行動と密接に関係しているため、解消は構造的に困難である。政府によるドラッグ・ラグを「解消可能」とする議論は、経済学や医療政策の基本的論理を無視している。ドラッグ・ラグ解消の取り組みが負の影響を及ぼしており、その一例が日本人特有の有効性や安全性データの軽視である。現在では、日本での開発を簡略化した新薬の導入が進み、安全性への懸念が高まっているが、社会的な議論はほとんど行われていない。また、新薬開発の国際化により英語が主流言語となり、日本語の役割が低下、翻訳や通訳の軽視が、情報共有や透明性の低下を招いている。また、複数の新薬の価値を均一に見なすのは問題で、ドラッグ・ラグの長い薬はむしろ安全性が高いという事実があるーー。
コロンビアの芸術家フェルナンド・ボテロが存命であれば、「ドラッグ・ラグ解消」をめざすよりも、「患者に役立つと自ら判断した新薬を上手に調達する」という現実的なアプローチを提唱する小野先生の銅像建立を依頼したいところだ。小野先生の議論はブログのサル的日記でも公開されているので、是非ご一読頂ければと思う。