欧州の新薬価格交渉の経験


 突出して高い薬価水準の国であり、国際比較は繰り返されるアプローチだが、I.D.シベルソンらハーバード大学系のチームは、インフレーション抑制法(IRA)に基づいたメディケア薬価交渉プログラムを睨んで、技術評価−価格交渉の長い経験を持つ欧州7ヵ国と退役軍人省(VA)医療システムの交渉担当に、交渉プロセスの詳細を確認する掘り下げたインタビューを1月に行った。


 予行演習、構造化した質問リストを送ったうえで評価と交渉を実際に担う幹部から1時間、制度、枠組み、運用を聴く形質的な調査だ。


 すべて承認後に行われる新薬に対するプロセスであり、成熟した限定的なブランド製剤限定のメディケアの枠組みとは異なるが、「より効果的な価格交渉に導く」ヒントを探った。


 表3に聞き取り結果を要約した。



 ①メディケア&メディケイドサービス庁(CMS)は評価と交渉を一体的に展開するかたちで始めたが、役割を区分することが市民の信頼を促進し、独立した、客観的な決定に役立つはずだ。ベルギーは評価と交渉の時間を分けるアプローチを採った、②QALYベースの経済的評価の使用を法は禁じているが、フランス、ドイツが採る構造化した評価法は、QALYに頼らずに明快な評価の枠組み確立が可能なことを実証している。


 興味深いことに、交渉に際して7ヵ国いずれも新薬開発費用への考慮はなかった。具体的にどう対処するのかメディケアも指針はないが、イノベーション投資、研究支援との関係は高い関心事だ。


 仏・英はイノベーション促進策を価格交渉の外で展開している。統合しない選択もある。


 価格交渉の詳細はしばしば「商業上の機密」として明らかにされない。成熟した大型ブランド限定のメディケア薬価交渉プログラムは連邦政府に幅広い裁量(オプション)があり、評価と交渉の透明性、再現性を欠くアウトライヤーと厳しく判定、先例から改善策を見出すよう勧めた。


 欧州連合(EU)は2025年1月、加盟国を通じた新薬の臨床評価を標準化した枠組みで進める態勢に入る。最終判断は固有の状況を反映できるよう加盟国に任せるが、抗がん剤や遺伝子療法の合同臨床評価がまず始まる。新薬を支える臨床データの多様性、しばしば信頼性に不安のある証拠に頼るしかない状況に対処するアイデアが期待されている。


 対照的に販売開始から7〜11年以上の製剤の価値を問うメディケアの薬価交渉プログラムが始まった。プログラムが定着し、経験を重ねるとしたら、相互に刺激しあう関係も期待できる。


注:G.E.G.Claus, et al., Ann Intern Med online 2024.9.3/Ann Oncol 2024.9