自民支持団体の委員を「排除」


 なぜか。15年前の「悪夢」が、医師会関係者の脳裏をよぎるからだ。09年10月、長妻昭厚労相の下、日医の竹嶋康弘副会長、藤原淳常任理事、中川俊男常任理事が中医協委員から外された。代わって、京都府医師会の安達秀樹副会長、茨城県医師会の鈴木邦彦理事、山形大学の嘉山孝正医学部長という、民主党と関係性の近い面々が起用された。


 日医執行部からの委員がゼロとなり、政権交代や民主党の「政治主導」を象徴する人事と称された。日医は3人を中医協に委員として送り込むことで、職能団体トップの座を維持してきたからだ。


 日医が20年に発行した「日本医師会 平成三十年の歩み」を見ると、09年のトピックに、その異例さを強調した記載がある。


「厚生労働大臣に就任した長妻昭氏は、中医協委員の改選にあたって、日医が推薦することになっていた診療側委員を除外して、独自に選任するなど、中医協始まって以来の事態となった」


 当事者でもあった中川氏(のちに日医会長)が長妻厚労相に「『断じて容認できない』と強く抗議した」とも記されている。




 中医協は診療側(7人)、支払側(7人)、公益側(6人)で計20人の三者構成。このうち診療側は医師代表5人、歯科医師代表1人、薬剤師代表1人。医師5人の枠は、日医推薦で3人、日本病院団体協議会(日病協)推薦で2人を輩出してきた。


 09年の「長妻人事」を経て、12年に自民党が政権を奪還して以降は「地域医療の担い手の代表」として、日医が3人を推薦する従来のかたちに戻っている。


 しかし再び、中医協委員の「入れ替え論」が降って湧いた。あらためて振り返ると、国民民主党の主張は、委員に「医薬品関連業種の代表者を加える」というもの。委員定数の増員の可能性を除けば、現在の委員を外して、医薬品業界の代表者を入れる考え方になる。


 もっとも、委員とは別に「専門事項の審議要員」として専門委員のポストが設けられており、医薬品業界の代表(製薬・卸)3人も審議に加わっている。ただし、専門委員は「求められたときに意見を述べる」のが役割で、自ら議論を提起したり、中医協としての意思決定に直接関与したりすることはできない。


 国民民主党の田村麻美氏(党社会保障調査会長)は本誌にこう力説している。


「必要なくすりがなければ医療が提供できず、医療機関経営も成り立たない。医薬品産業が相当疲弊するなか、業界の代表を正式な委員にしない理由は見当たらないのではないか」


 日医関係者は、こうした国民民主党の主張に警戒感を示す。


「新たに医薬品業界の人間を(中医協委員に)加えるとなれば、人数が一番多いところ(日医推薦の3人枠)がターゲットにされかねない」


 一方で、労働界の関係者からは、診療側ではなく、保険者・被保険者・事業主などという構成の支払側に「医薬品関係の労働組合の代表が入ってもいいのではないか」といった意見も聞かれる。


 かつて厚労省保険局は、中医協を舞台にした贈収賄事件を受けた対応で報告書をまとめた際(04年9月)、こんな論点を提示している。


「委員に患者や看護師の代表、病院経営者の代表を加えるなどして、幅広い視点で議論できるようにすべき」


 その後、患者や病院の代表は委員入りを果たしているものの、看護師の代表は、医薬品業界と同様に専門委員にとどまる。看護業界からは、中医協の委員ポストを求める声が根強い。


 このほか、日病協からは、高額薬剤の病院への影響を考慮し、中医協・薬価専門部会に「病院団体推薦の委員に参加してもらうことが必要」といった声が上がる。現在、薬価専門部会の医師委員は日医推薦の2人(長島公之氏、江澤和彦氏)が務めている。


 国民民主党が投じた「中医協改革」という一石は、どこまで波紋を広げることになるのか。



 自民党厚労関係議員の古参秘書はこんな見立てを披露する。


「中医協はある意味で与野党の縮図のようなもの。診療側はすべて自民党支持団体、支払側の一部もそう。だが、支払側には立憲(民主党)や国民(民主党)を推す連合が委員を出しているなか、衆院選の(自民)大敗で、あちら(野党)側が力を増している」