モノクローナル抗体は、その抗原との特異的な結合性(抗原抗体反応)を治療・診断・研究に広く利用されている。抗体は、脊椎動物の液性免疫系で重要な役割を果たすタンパク質であり、ゼロから設計・合成するのは非現実的なため、細胞に産生させる。


 元来の産生細胞であるB細胞と不死の骨髄腫細胞(ミエローマ)とを融合させて無限に増殖可能な「ハイブリドーマ(融合細胞)」とする手法が75年に確立され、産生細胞を安定して得られるようになった。融合させる元のB細胞は、マウスなどに標的への免疫反応を起こさせた後、その脾臓から取り出す。


 ただし、抗原抗体反応のエピトープ(抗原決定基)は複数あるのが当たり前で、つまり活性の異なる抗体を産生する別起源のB細胞クローンが脾臓内に混在しており、活性の高いものを選抜する過程が欠かせない。ハイブリドーマ法では、抗体が細胞外へ分泌され、活性の高いものをつくった細胞がすぐにはわからないため、絞り込み終わるまでに何カ月もかかる。そもそも細胞融合に成功する確率自体0.001%未満と低く、活性の高い抗体を生む細胞の取りこぼしも起こり得る。


 いったん選抜さえ済んでしまえば、そのB細胞の抗体遺伝子をクローニングし増幅して、ベクター経由で大腸菌や哺乳動物細胞などの宿主細胞に導入する組換技術によって、より優れた産生細胞を得ることもできる。


 つまり選抜に要する時間が抗体利用のボトルネックとなっているわけだ。20年初頭からのCOVID-19パンデミックの際も、抗体単離が発表されたのは夏だった。


 そんななか、ハイブリドーマを経由せず最初から宿主細胞に遺伝子導入、選抜に要する時間を飛躍的に縮めつつ活性の高い細胞をほぼ見逃さないという技術を開発、実際に複数のインフルエンザウイルスに対する高い交差親和性の組換モノクローナル抗体をマウスへの免疫から7日以内に得ることができたとの論文が、11月の『eLife』誌に掲載された。


 手法を開発した論文の筆頭著者が、理化学研究所生命医科学研究センター統合ゲノミクス研究チームの渡辺貴志技師(写真)だ。B細胞の抗体部分のDNA配列を次世代シーケンサー(NGS)で同定しPCRで増幅、同じB細胞由来の重鎖と軽鎖の可変部をコードする配列をセットにして、つくられる抗体は宿主の細胞膜上に発現するよう、ベクターに運ばせるプラスミドを設計した。