11月21日、スイス・ノバルティスが新しい中期経営計画を発表した。目を引いたのは、中長期的に同社の成長を担う3つのバイオ・プラットフォーム(モダリティ)だった。核酸医薬(xRNA)、遺伝子治療・細胞、放射性医薬品である。とくに放射性医薬品の潜在市場は290億ドルもあると開発意欲を示した。




 現在のバイオ医薬で抗体薬物複合体(ADC)が我が世を謳歌している。気の早い製薬業界では、ポストADCを探す動きも激しくなってきた。放射性医薬品、なかでも創薬標的と特異的に結合する分子(リガンド)に放射性同位元素(RI)を結合した放射性リガンド(RIL)こそが、有力候補として浮かび上がってきた。低分子や中分子、ペプチド、抗体、核酸など多様なリガンドが開発されており、こうしたリガンドにRIを結合した治療薬をRILと総称する。


 放射性医薬品と言えば、つい数年前まではinvivo画像診断用製剤だった。今でも売上げの大半を占めている。治療用の放射性医薬品の嚆矢は、16年6月、日本で発売された「ゾフィーゴ」(放射性ラジウム223、バイエル薬品)。骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんの治療薬だ。遅れること5年、RILの商品化第1号は21年9月に発売した「ルタテラ」(ノバルティス)だった。この製剤は放射性ルテシウム177で標識したソマトスタチン誘導体。腫瘍細胞上に過剰発現するソマトスタチン受容体に結合し、放射線でがん細胞を殺傷する。適応症はソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍治療薬。同社は88年からソマトスタチン誘導体を末端巨大症や内分泌腫瘍の治療薬として商品化しており、それをRILのリガンドに転用してルタテラの開発に成功した。