毎年、世界の製薬大手全体の経営分析として、売上高原価率、販売管理費、研究開発費、税引前利益、純利益、ROE、従業員1人当たり売上高と純利益などについてランキングや平均値をまとめている。24年も終わろうとしているときに23年決算のランキングで恐縮だが、いつも思うのは、日本の製薬企業は武田薬品工業を除き、どうしてこれほど販管費率が高く、純利益率やROEが低いのかということである。
まず表1では大手を中心に中堅やジェネリックメーカーを含む24社の販管費率と販売効率を示した。表にある効率は、「1÷販管費率」で計算されるもので、1ドルの販管費でいくら売上げたかという数字。最下行にある平均は非常に高いところと低いところを除外した21社の平均値。この数字は15年以上まとめているが、毎年少ないのはロシュ、ブリストル・マイヤーズスクイブ、米メルク(MSD)でだいたい決まっている。9位の武田薬品は平均より少ない24.7%で22年も23年も変わっていない。
他の日本の大手4社は毎年最下位に近く、1ドルの販管費で上げた売上げは3ドルに満たず、非常に効率が悪い。日本のメーカーは社会保険料や厚生年金を社員と同額負担しているのでその費用も高いためだと言われるかもしれないが、日本で年収1000万円の社員の厚生年金は71.4万円、社会保険料は49.8万円で、合わせて121.2万円だ。
これに対し、米国では24年の企業が加入する民間医療保険料(家族のいる社員)の平均が前年比7%増の2万5572ドルとなっており(カイザーファミリー財団調査による)、社員が負担するのは30%程度のため、企業負担は1万7900ドルである。最近のドル150円で換算すれば、約269万円を企業が負担している。これ以外に厚生年金に代わる401Kのような費用もかかる。24年の上限は2万3000ドル、社員負担は50歳以上なら7500ドル。ファイザーのように本社がニューヨークなら家賃が米国で最も高い月4200ドル(24年2月のブルームバーグの報道による)で、年収15万ドルぐらいはないと生活できず、401Kも上限に近いだろう。
BMSの本社は隣のニュージャージー州だが、24年に本社を含むニュージャージー州のオフィスで累計1300人以上レイオフしており、販管費率が非常に低いBMSでも今後必要なくなる職務の人は人件費削減のため解雇している。ニュージャージーなら家賃は3140ドルでニューヨークより年間1万3000ドル近く安い。この家賃をドル150円で換算すれば47万円強であり、米国では家賃に年間565万円を払える給料を払わなければ人を雇用できないという状況にある。
米国の売上高が51%強を占める武田薬品は当然ながら米国の社員も多く、それだけ人件費も高いはずだが、表1で販管費率は24.7%と低い。なお、アストラゼネカが欧米大手で最も販管費率が高く43.1%となっている。これはスウェーデン企業のアストラの給与水準が非常に高く、英国企業のゼネカも統合時にはアストラ側に合わせたことや、従業員数が大手でトップクラスの89900人と多いことが影響している。第一三共は23年に22年より高くなって39.2%。1ドルの販管費で2.55ドルの売上であり、メルクの5.71ドルに対して半分以下。第一三共の24年3月末の従業員数は前期比1291人増の18726人で、それほど多いわけではない。