開示請求にほぼ応じず


 筆者はこの疑問を確かめるため、事例調査検討委員会に関する以下の法人文書の開示を、独立行政法人の保有する情報の公開に関する法律(以下、「独立行政法人情報公開法」)に基づき滋賀医大に求めた。


①滋賀医大病院が外部委員に送った評価依頼文書

②外部委員が担当患者の評価結果を記載して滋賀医大病院に送った文書

③外部委員の推薦を受けた学会名を記載した文書

④外部委員の専門分野ごとの人数を記載した文書


 この開示請求に対し、滋賀医大が開示したのは①のみだった。開示された文書によると、滋賀医大病院の松末吉隆病院長は外部委員候補者に委員委嘱の依頼状(2019年3月26日付)を送り、承諾を得た外部委員に対し、患者数人分のカルテとともに調査(評価)を依頼する文書(同年6月3日付)を送っている。調査内容は、①「CTCAEv4分類」(※筆者注=事例調査検討委員会報告には、「有害事象共通用語規準v4・0日本語訳JCOG版に基づいたCTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)と記載)での合併症の程度を、Grade「1〜5」の5段階で回答する、②医療安全上の影響度分類に従った時の合併症の程度をレベル「0」「1」「2」「3a」「3b」「4a」「4b」「5」の8段階で回答する、③外照射を含む小線源療法との因果関係について、「あり」「可能性あり」「なし」「判定不能」の4つから選ぶ——というものだった。


 一方、滋賀医大は②〜④の文書を不開示とした。独立行政法人情報公開法第5条第1号、第3号、第4号柱書に該当するためというのが、滋賀医大が挙げた不開示決定の理由だった。具体的には、外部委員が評価結果を記載して滋賀医大病院に送った②は、同法第5条の1号「個人に関する情報」に当たり、③と④は同法第5条の3号「法人における審議検討に関する情報」及び同法第5条の4号「法人が行う事務・事業に関する情報」に当たるため、というのが滋賀医大の言い分である。


 同法第5条の1号は、個人に関する情報であって、その情報に含まれる氏名、生年月日等によって特定の個人を識別することができるものなどを不開示にできると定めた条文である。同法第5条の3号は、国、独立行政法人等の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれなどがあるものを不開示とすることができると定めた条文である。同法第5条の4号は、国の機関、独立行政法人等の事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務や事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものを不開示とすることができると定めた条文である。


 不開示決定に対し、筆者は「正当でない」として審査請求を行った。理由は以下のとおりである。




1.②の文書は患者に関する情報のみを黒塗りにして開示すれば個人情報は保護されるのだから、文書全体を不開示とする根拠がない。


2.事例調査検討委員会の活動自体に手続き上の問題及び違法性の疑いが指摘されており、滋賀医大が法人として中立性を保ち、適正に事務・事業を行っているかどうかについて重大な疑念が生じているのであるから、滋賀医大には、③④の文書を「法人における審議検討に関する情報」「法人が行う事務・事業に関する情報」であることを理由に不開示とする資格はない。




 筆者の審査請求を受け、滋賀医大は情報公開・個人情報保護審査会に諮問した。同審査会は20年7月、滋賀医大が不開示とした決定について「理由の提示に不備がある違法なものであり、取り消すべきである」と答申した。答申の約2ヵ月後、滋賀医大は前記②〜④の文書を不開示とする理由を記述した通知書を筆者に送ってきた。通知書には不開示理由が長々と記されていたが、筆者はいずれの理由も正当性を欠いていると受け止め、改めて審査請求を行った。


 筆者の審査請求を受け、滋賀医大は再び情報公開・個人情報保護審査会に諮問した。同審査会第5部会(藤谷俊之、泉本小夜子、磯部哲の3委員)は22年2月10日、滋賀医大の不開示決定を妥当とする結論を出し、同大に答申した。理由の概要は以下のとおりである。




1.事例調査検討委員会の外部委員が症例の調査・検討等を行った内容を記載した文書が公になった場合、滋賀医大における医療安全管理に関する調査・審議等の実施が困難となり、当該事務・事業の適正な遂行に多大な支障を及ぼすおそれがあるとの滋賀医大の説明は否定し難い。


2.極めて秘匿性の高い医療安全管理上の内部の調査審議・検討等に参画する外部委員に関する情報が公になった場合、外部委員や推薦学会との信頼関係が損なわれることとなり、今後、外部委員の参画や推薦を得られない状況が発生する可能性があるとの滋賀医大の説明は不自然、不合理とまではいえず、否定し難い。




 外部委員が集まって審議したことが1回もないという、事例調査検討委員会規程に明白に反する不透明な委員会運用をした滋賀医大の行為には目をつぶり、その主張を深く検討しないまま追認した答申である、と筆者は受け止めた。


 すでに述べたように、小線源治療に関する有害事象の調査は医療安全監査委員会の要請に基づくものであった、というのが滋賀医大の説明である。滋賀医大病院の医療安全監査委員会はいかなる情報や説明に基づき、どのような理由で、岡本医師の治療による有害事象の調査が必要と判断したのだろうか。それを確認するため、筆者は24年4月、4人の関係者に取材を申し込んだ。18年当時もいまも滋賀医大病院医療安全監査委員会の委員長を務めている京都大学医学部附属病院医療安全管理部長の松村由美教授、19年当時滋賀医大学長だった塩田浩平氏、同じく滋賀医大病院長だった松末氏、滋賀医大病院医療安全管理部長で現在は病院長を務める田中俊宏氏だ。


 取材依頼に対し松村氏からは「他大学の所管する事案にかかる内容でありますので、回答は差し控えさせていただきたいと存じます」との返信があった。塩田氏は「学長職を退任してから4年以上経過し、在任中の資料も手元にない」ことを理由に、松末氏は「大学を退職している」ことを理由に、いずれも書面で取材を断ってきた。田中氏への取材依頼については滋賀医大から「対象事案に係る裁判は終了しているため、本学として回答することはございません」と書かれた回答文が送られてきた。