今回は21年に上市された血糖低下薬「ツイミーグ」(イメグリミン)を取り上げる。
23年4月には在庫が逼迫するほど処方量が伸びた。しかし、その血糖低下作用はプラセボにこそ(当然)勝るものの、安価な従来薬と比較した優越性は不明だった。さらに大血管症や細小血管症に対する抑制作用も未知である。にもかかわらずそれほど処方が増えたとは、日本におけるEBMの成熟度がわかろうというものだ。
さて、11月には待望のイメグリミンと他剤の血糖降下作用比較試験が論文化された(①)。40例と少数だが無作為化試験である。対照薬はメトホルミン。血糖降下剤未使用、あるいは経口剤1剤のみ服用中だった、日本在住の2型糖尿病患者が登録された(メトホルミンやイメグリミン使用例は除外。服用薬は試験前に中止)。用量は両剤とも、国内標準用量である。
その結果、主要評価項目である「HbA1c」は12週間後、24週間後とも両群間に有意差はなかった。副次的評価項目のひとつである「糖負荷後血糖変動」も同様である。また両群とも、体重や体組成の有意な変化は認めなかった。つまりイメグリミンが糖代謝や体組成に与える影響は、メトホルミンと差がなかった。
メトホルミンは、血糖降下作用だけでなく予後改善作用も証明されている。2型糖尿病新規診断患者を対象としたUKPDS試験において、生活指導のみの群に比べ死亡を相対的に36%、有意に低下させた(②)。絶対リスク差から計算したNNT(治療必要者数)は「21」と一見良好だが、要した期間は10.7年間(中央値)だ。
仮に本邦標準用量上限の1500㎎のメトホルミンを10.7年間服用するならば、薬剤費は11万8000円強。年間で1万円ちょっとである。では同期間、イメグリミンを標準用量の2000㎎で継続したらいくらになるのか。ジェネリック登場後の価格低下は不明なので現在の先発品価格で計算すると、53万円強となる。メトホルミンとの差額は40万円強だ。
糖代謝や体組成への作用には差がないのに、薬剤費にこれだけの差が生まれる。費用対効果(コスパ)は圧倒的に悪い。さらにイメグリミンはメトホルミンと異なり、予後を改善するかどうかも不明だ。積極処方は、医療経済的に正当化し得るだろうか。
もっともイメグリミンには、血管内皮機能改善作用や、メトホルミンには認められないGIP(インクレチンの一種)増加作用が報告されている(今回論文)。そのため心臓血管系疾患抑制を期待して、処方する向きもあるのだろう。