「沈黙」が続く製薬会社


 米国医薬品市場の基本的な特徴である製薬会社による自由な薬価設定と市場原理に基づく交渉の浸食の始まりを語る政府(メディケア)による薬価交渉に踏み入れた最初の年にもかかわらず、プログラムの評価が公然と語られることは少なかった。


 正味22%平均引き下げ、数社は投資家に対して影響は「管理可能」と請け負うコメントはあったが、制度上「もっともフェア」と定義される価格に同意した印象を拒むように沈黙が続く。


 選挙前後、違憲・差し止め訴訟控訴審審理の求めが一斉に始まった。連邦裁判所では敗訴が続いたが、控訴審で9件の一部でも支持されれば、頼みの最高裁に持ち込める。ただし最初の交渉で決まった薬価の2026年1月実施とのタイミングは微妙だ。


 原告製薬会社は、交渉価格と言いながら「押しつけ」であり、実際、拒否できないと嘆く。企業として「発言の自由」が封じられる状況を批判している。


 メディケア局長セシャマニ報告も、2022年夏の法制化から短期間で、臨床・経済・価格交渉の官民の専門家チームを雇い入れ、関係者に耳を傾け、明快な過程に沿って作業を進めることができたと交渉の成功のアピールに終始した。


「医師としてイノベイティブな療法を目撃」してきたが、それは(保険で)賄える限りの話と念を押した。「エコノミストとして市場の改善促進にはデータが重要なことを理解」した交渉だったと説明した。


 しかし、マッティングリーらは、席に引き出される製薬会社にとって、交渉に臨む際、どんなデータをどう揃えればいいのか指針は不明で、透明性を改善しなければならないと反論した。


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 25年2月に交渉第2ラウンドの15製剤の指定があり、製薬会社からのデータ提出以降、交渉プロセスに入る。関係者からの意見聴取の拡充、CMS提案に納得がいかない製薬会社の再提案と交渉機会の追加など、いくつかの改善が約束されている。


 3月には第1ラウンド交渉価格の正当性に関わる根拠の説明が予定される。法が指示した日程であり、厚生長官指名のケネディ、CMS長官指名のメハメット・オズにとっては就任早々に猶予なしの対応が迫られることになる。


 第1ラウンドは価格譲歩も進んでいた製剤が対象であり、引き下げ影響も限られた。だが、共和党政権下で継続されてもネガティブ度は増していく。とりわけ第3回、価格譲歩率の低いパートB製剤が対象になるときだが、前2回の交渉価格の負担軽減を患者が経験してしまえば、制度の廃止はいよいよ困難になる。


 3月の交渉結果報告は、7年以上の市場経験を有する大型ブランドの評価は、新薬発売時の評価・価格交渉とどう異なるのか、比較対照薬は新旧ないまぜで、競争に伴う市場価格の形成など、複雑化させる経済的評価の追加要素が問われる。


「すぐにも価格を下げて見せる」、8年前のトランプの大見えは空振りに終わった。第2次政権は忘れて済ませるのか、産業界フレンドリーな共和党議会が政策の悪影響を理解し、法制化を優先課題に据えるのか、揺れるインフレーション抑制法(IRA)のメディケア薬価交渉条項の観察を続ける。