『バリアバリューの経営』は、「車いすの起業家」として知られる垣内俊哉氏の創業から現在にいたるまでの歩みを綴った1冊である。
垣内氏らが起業したミライロは、ユニバーサルデザインやユニバーサルマナーに関するコンサルティングや教育研修、建築物等のユニバーサルデザイン化の支援などを行う企業。デジタル障害者手帳「ミライロID」の開発・運営などでも知られる、障害者の困りごとを中心とする社会課題解決にフォーカスした企業だ。
同社は、起業からほどなくして著者自身の〈車いすユーザーとしての視点や経験〉に着目、実践を通じてサービスを進化させ、次なる障害者の困りごとや企業の課題に事業領域を広げていく。
この規模のスタートアップとしては珍しいケースだが、同社は早くから〈障害のある社員を採用して、新たな視点を社内に取り入れ〉るなど、多様性のある組織の構築を進めている。また、〈手を離すべきところは離して、組織として成長していかなければならない〉と権限委譲を進めたり、事業の標準化についても早期に取り組んだという。
トップのカリスマ性に頼るスタートアップが少なくないなかで、多様性や持続可能性を意識した経営と言える。
もちろん、すべてが順風満帆だったわけではない。コロナ禍で業績が落ち込んだ際には、取引先に出資を仰いだ。それでも〈経営の自由度を守るためマイノリティ出資〉を条件とするなど、難しい交渉も乗り越えている。
これから起業を考える人にとって本書は良質なケーススタディとなるはずだ。
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