教訓を生かすべき(小林製薬本社)
単なる「食品」扱い
問題の核心は日本の健康食品・サプリメントが「食品扱い」であることだ。医薬品とは異なり、原則として事前の安全性試験が不要で、トクホや機能性表示食品以外は企業が自主的に品質を管理するため、リスクが深刻化しやすい。
第1に、成分の安全性が未検証であるため、過剰摂取や副作用のリスクが高まる。第2に誇大広告が野放しになり、消費者が誤った期待を抱きやすい。第3に、製造過程での品質管理が不十分で、不純物混入や表示不一致が頻発する。最後に、消費者保護が欠如し、健康被害時の救済措置が整備されない。
また現状、健康食品・サプリメント製造業については、営業許可業種に含まれていない。営業許可業種とは食中毒等のリスクや、食品産業の実態を踏まえ、公衆衛生に与える影響が著しい業種に対して申請を求めるものだ。
よって、先般の紅麹事案のような問題が起きて、規制を検討しようにも製造業者の実数を把握することさえ困難だ。インターネットやSNSを通じた個人販売が急増し、インフルエンサーが根拠のない効果を宣伝することで、問題はより深刻化する。不正確な成分表示も悪化の一途を辿っており、過去には国民生活センターの調査で、市販の健康食品の一部に表示と実測値が全く異なるケースも確認された。
さらには海外製品の流入が危険性に追い打ちをかける。日本であれば医薬品に該当する成分を含んでいるにもかかわらず、サプリメントとして販売されている商品も巷に溢れており、製造工場の不衛生や未承認成分の混入などが問題視されている。例えばダイエットサプリに含まれるシブトラミン(日本未承認)が心血管系障害を引き起こした事例が過去にあり、こうした製品が「食品」として流通することで、消費者はリスクを知らずに摂取してしまう。
紅麹問題により、機能性表示食品に対する危機意識は高まったものの、それ以外のいわゆる「健康食品」は依然、野放し状態だ。悪徳業者が問題を起こしては、新社名に名義変更して販売を再開するという負の連鎖が続いている。
このような問題を解決するには、適正な規制の整備が必要不可欠である。まずは食品表示基準等を通じた適正化が必要だ。紅麹問題を契機に、政府は現在、「機能性表示食品」につき、内閣府令・告示で、健康被害情報の提供、製造管理及び品質管理等について規定する方向性で検討している。だが本来は健康食品・サプリメント全般に設けることが必要であり、それにより消費者がいかがわしい健康食品から守られる。
また営業許可業種への追加も必要だ。営業許可業種には「清涼飲料水製造業」ですら設定されているのに、「健康食品・サプリメント製造業」がないのは明らかな制度の「抜け穴」だ。
成長産業化と医療費削減
一方で、日本の健康食品・サプリメントは国際市場での成長が大きく期待されている。22年の輸出額は331億3000万円と、前年比44%増の大幅増。農林水産省が掲げる「食品年間輸出額2兆円目標」の一翼を担う品目として注目されている。この背景には、日本製の「高品質」「安全性」というブランドイメージと、世界的な健康志向の高まりがある。
さらに発展途上国への展開は国際貢献のすそ野を広げる。発展途上国で深刻な栄養問題となっているビタミンA欠乏症や鉄分欠乏症はサプリメントで支援することができ、味の素のような企業がアミノ酸技術を活用した低コストサプリの提供に取り組むなど、経済的利益と国際貢献の両立が見込める。
健康食品・サプリメント市場が適正に成長すれば、当たり前だが国民の健康増進や疾病予防にも貢献し、結果的に医療費の削減にもつながる。しかし、そのためにも、過去に発生した有害事象の教訓を活かし、危害を未然に防ぐことが必要だ。紅麹問題のような健康被害の教訓を活かすことなく、健康食品・サプリメント市場を規制のない無法状態のまま野放しにし、品質崩壊のリスクを放置すれば、信頼は損なわれ、市場の明日はない。
紅麹問題は危機意識のない政府と企業の目を覚ます強烈なビンタとなった。これを好機に活かせるかどうかに、小林製薬のみならず日本の将来がかかっている。