今回は、令和5(2023)年度、国内で承認された新有効成分含有医薬品(NME: New Molecular Entity)のうち、アンメット・メディカル・ニーズに対応し、患者・使用者のQOLに寄与する6品目を紹介する。

※個別の薬剤の記載は【販売名(日本語・英語)/一般名、企業/関連キーワード】の順。表中の効能・効果の表記はPMDAの「新医薬品の新薬承認品目一覧」に基づく。


■免疫が関わる皮膚疾患の多様な標的

 皮膚科領域では、病態に関わる免疫学的なシグナル伝達を阻害する2品目が承認された〈表〉


【知っておきたい前提:サイトカイン受容体とシグナル伝達分子】クラスⅠ/Ⅱサイトカイン受容体〔大部分のインターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)の受容体〕にはJAK(Janus kinase、チロシンキナーゼの一種)が会合しており、STAT(シグナル伝達兼転写活性化因子)をリン酸化し核移行を促進する。JAKは多くのサイトカインのシグナル伝達に必要であり、細胞外からシグナルを受け取る側面と、細胞内にシグナルを伝える側面が、ローマ神話の双面神Janus(ヤヌス)に例えられる。また、JAK阻害薬は新しいタイプの免疫調節薬として、骨髄線維症、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、潰瘍性大腸炎などを対象に開発が進んでいる。


リットフーロ LITFULO /リトレシチニブ、ファイザー/JAK阻害薬】円形脱毛症(alopecia areata: AA)は、明らかな皮膚疾患や全身性疾患がない人の毛髪が斑状に抜ける病気だ。重症例では増悪・軽快を繰り返しながら脱毛斑が拡大することが多い。

 臨床的には、通常型(単発、多発)、全頭型(脱毛巣が全頭部に拡大)、汎発型(脱毛が全身に拡大)等に分類される。病態生理は複雑で完全には解明されていないが、毛包組織に対する自己免疫疾患であり、発症にはCD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞に分化)、NK細胞、マスト細胞が関与すると考えられている。これらの細胞の分化や機能制御には、JAK3やTECファミリーキナーゼ(T細胞の活性化やB細胞の発生・活性化に重要な役割を担う一群のキナーゼ)の関与が知られている。

 特に慢性期のAA病変ではT細胞からTFN-γが分泌され、それに呼応して毛包上皮細胞からサイトカインが分泌される “悪循環”が生じ症状が遷延する。その下流には、サイトカイン調節の情報伝達において重要な役割を果たすJAK/STAT経路がある。リトレシチニブはJAK3およびTECファミリーキナーゼを不可逆的に阻害し“悪循環”を断つことで治療効果を現わす。

 日本皮膚科学会の「円形脱毛症診療ガイドライン2017年版」が作成された段階で難治AA患者に推奨される治療薬はなかった。しかし、JAK1/2阻害薬バリシチニブ(販売名オルミエント、イーライリリー)の重症AAに対する効能・効果追加(22年6月)および本剤の承認に伴い、「ADにおけるJAK阻害内服薬の使用ガイダンス」(治療実施施設の条件を含む)が公開された。なお、本剤は23年6月23日に米国で世界に先駆けて承認された3日後、6月26日に日本で承認された。


【知っておきたい前提:2型免疫応答】液性免疫や細胞性免疫を助けるCD4陽性T細胞〔ヘルパーT(Th)細胞〕は、エフェクターT細胞となって機能を発揮する。Th細胞は多様なサブセットに分化するが、Th1/ Th2/Th17細胞がそれぞれ産生する特定のサイトカインによる応答を、1型/2型/3型免疫応答という。このうちTh2細胞は抗原刺激によりIL-4、IL-5、IL-13などを産生〈図〉。IL-4、IL-13はB細胞からの抗体産生を増強する。また、血球系細胞ではIL-4α鎖を受容体の共通サブユニットと用いるため機能の一部が重複している。一方、IL-5は好酸球の分化誘導と活性化を引き起こす。


イブグリース Ebglyss /レブリキズマブ、イーライリリー/抗サイトカイン療法】アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis: AD)は痒みを伴う湿疹を主病変とする疾患で、増悪と軽快を繰り返す。高所得国における罹患者は、小児の約20%、成人の約10%とされる。ADの発症には遺伝因子、表皮バリア機能障害、免疫学的機序、環境誘因の全てが関わる。また、IL-4、IL-5、IL-13、IL-22、IL-31、IL-33、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)、IFN-γなど複数のサイトカインが関与する。

 ADの皮膚炎症はT細胞性の遅延型過敏反応であり、Th2細胞と関連サイトカインの強い活性化を特徴とする。特にIL-13は、Th2細胞を起点とする炎症を誘導し、表皮バリア機能障害、瘙痒、皮膚の肥厚、易感染性を引き起こし、ADにつながるメディエーターと考えられている。

 レブリキズマブはIL-13に結合するIgG4モノクローナル抗体で、IL-13受容体複合体(IL-4受容体αサブユニット/IL-13α1サブユニット)の形成と、複合体を介したIL-13シグナル伝達を特異的に阻害し、生理的役割を担うIL-13α2は阻害しない。


【難治性AD治療の選択肢拡大】前述のようにJAK/STAT経路阻害もADへの別のアプローチとなる。国内ではJAK阻害内服薬として、2020年にバリシチニブ(前述)、21年にウパダシチニブ(販売名リンヴォック、アッヴィ)がADに適応拡大され、同21年にアブロシチニブ(同サイバンコ、ファイザー)が承認された。20年12月末現在の状況をもとに作成された日本アレルギー学会・日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」の診断治療アルゴリズムでは、「中等度以上の難治状態」の場合、外用療法に加えて併用を検討する治療として、シクロスポリン内服、デュピルマブ皮下注、バリシチニブ内服、紫外線療法、心身医学的療法が挙げられていたが、現在は本剤を含め選択肢が複数加わったことになる。