読む医療—医師が書いた本の斜め読み—
まなざし/まなざされる関係
第69回
鍛冶孝雄
2017年3月15日号
7年ほど前の初夏に夫婦で九州旅行をしたときのこと。ターミナル駅の構内を歩いていると、車いすに乗った脳性まひの少年がじっと動かないでいるのに遭遇した。年齢は15歳くらいだろうか。体は右側に傾いており、左手は拳を固く握っているように見えた。右手は車いすの車輪につかまっている。近付いてくる私をじっと見つめ、すれ違う瞬間に、少年は意外に大きな声で、「あ、の、お……」と私を呼び止めた。言葉はゆっくりだが、聞き取れる。彼は、私にトイレに連れて行ってほしいと頼んだ。
率直に言えば当惑した。反射的に周囲を見渡した。彼の障害の程度なら介助者がいるのではないかと思えたからだ。しかし、そういう人物は見当たらない。了解して私は後ろに回って車いすの把手をつかみ、同時に障害者用トイレの場所を探さなければならないと視線を周囲に廻らした。トイレは車いすの...
7年ほど前の初夏に夫婦で九州旅行をしたときのこと。ターミナル駅の構内を歩いていると、車いすに乗った脳性まひの少年がじっと動かないでいるのに遭遇した。年齢は15歳くらいだろうか。体は右側に傾いており、左手は拳を固く握っているように見えた。右手は車いすの車輪につかまっている。近付いてくる私をじっと見つめ、すれ違う瞬間に、少年は意外に大きな声で、「あ、の、お……」と私を呼び止めた。言葉はゆっくりだが、聞き取れる。彼は、私にトイレに連れて行ってほしいと頼んだ。
率直に言えば当惑した。反射的に周囲を見渡した。彼の障害の程度なら介助者がいるのではないかと思えたからだ。しかし、そういう人物は見当たらない。了解して私は後ろに回って車いすの把手をつかみ、同時に障害者用トイレの場所を探さなければならないと視線を周囲に廻らした。トイレは車いすのすぐ
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