医薬経済オンライン

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読む医療—医師が書いた本の斜め読み—

いまだ捌けない「ケア」のあり方

第46回

鍛冶孝雄

2016年4月1日号

 南の貧しい漁村で育った。家は漁村特有の岸壁から続く狭い路地が入り組んだなかにあった。平屋で二間と、台所、玄関、勝手口をすべて兼ねた土間が生活空間。隣に大工だった祖父の作業小屋兼道具置き場もあった。  ベニヤ板が張られた天井はいつもネズミと蛇が徘徊していて、蛇がネズミを狩る音もよく聞いた。作業小屋と押入れの隅は、家ネズミの住処になっており、それを媒介とするらしい南京虫に苦しめられていた。肌着の縫い目には必ず南京虫や蚤がいて、着替えるたびに奴らを指で潰す作業を強いられた。  当然だが、排泄場所の環境も悪く、それを具体的にここで記すのは躊躇う。村の子どもたちの栄養状態も悪く、病気になることが多かった。その頃の救世主が、村から離れた街場で開業している男性医師で、彼はオートバイに診察かばんを括り付けて、村を走り回り、子...  南の貧しい漁村で育った。家は漁村特有の岸壁から続く狭い路地が入り組んだなかにあった。平屋で二間と、台所、玄関、勝手口をすべて兼ねた土間が生活空間。隣に大工だった祖父の作業小屋兼道具置き場もあった。  ベニヤ板が張られた天井はいつもネズミと蛇が徘徊していて、蛇がネズミを狩る音もよく聞いた。作業小屋と押入れの隅は、家ネズミの住処になっており、それを媒介とするらしい南京虫に苦しめられていた。肌着の縫い目には必ず南京虫や蚤がいて、着替えるたびに奴らを指で潰す作業を強いられた。  当然だが、排泄場所の環境も悪く、それを具体的にここで記すのは躊躇う。村の子どもたちの栄養状態も悪く、病気になることが多かった。その頃の救世主が、村から離れた街場で開業している男性医師で、彼はオートバイに診察かばんを括り付けて、村を走り回り、子ども

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