読む医療—医師が書いた本の斜め読み—
難しい文学者としての視点と医師としての視点
第32回
鍛冶孝雄
2015年9月1日号
年齢を重ねてから気付くことが多い。読書子の私の場合、漁村で過ごした少年時代は、現代ではほとんどの少年が経験できないことに溢れていた。広大な遠浅の浜を遠征して、徐々に満ちてくる潮に追い立てられながら獲物を取りつつ岸に近づくことの楽しさは忘れられるものではない。今では、育った土地に行ってもそうした経験は得られない。すでに浜はなくなっていた。
漁村に比べれば、山村のそうした私の主観的な「破壊」の実態は、少ないのかもしれない。ある時期から、山村を訪ねる機会が増えたが、自分が育った漁村ほど激しく変容していないのではないかと思う。そうした印象は、前回に引き続き取り上げる南木佳士氏の作品からも受けるのである。
その前回、南木氏の作品からは、ストーリーを動かしていく役割である主人公や周辺の人物に経済的な問題、つまり貧しさ...
年齢を重ねてから気付くことが多い。読書子の私の場合、漁村で過ごした少年時代は、現代ではほとんどの少年が経験できないことに溢れていた。広大な遠浅の浜を遠征して、徐々に満ちてくる潮に追い立てられながら獲物を取りつつ岸に近づくことの楽しさは忘れられるものではない。今では、育った土地に行ってもそうした経験は得られない。すでに浜はなくなっていた。
漁村に比べれば、山村のそうした私の主観的な「破壊」の実態は、少ないのかもしれない。ある時期から、山村を訪ねる機会が増えたが、自分が育った漁村ほど激しく変容していないのではないかと思う。そうした印象は、前回に引き続き取り上げる南木佳士氏の作品からも受けるのである。
その前回、南木氏の作品からは、ストーリーを動かしていく役割である主人公や周辺の人物に経済的な問題、つまり貧しさとい
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