時流遡航
回想の視座から眺める現在と未来
第12回 人情味豊かだった昔日の深川界隈
ジャーナリスト 本田成親
2015年8月1日号
貧乏学生時代、私が間借りして住んでいたのは、江東区深川牡丹3丁目にあった靴屋の2階の四畳半だった。部屋にはまともな自炊設備などなかったから、夕食などは当時の下町にはよくあった安い定食屋で済ませたものだ。私が行きつけの「千代」という定食屋の親父さんは、独特の気品と信念を内に秘めた穏やかな人物であった。技師として長年勤めた石川島播磨重工業(現IHI)を退職後、千代さんという女将と駆け落ち同然の状態で深川に移り住み、町工場の工員や労務者、貧乏学生相手の店を開いていたのだ。元辰巳芸者の千代さんは高名な俳人・水原秋桜子の門弟でもあったそうだから、そこに至るまでのご両人にはそれなりの深い事情があったのだろう。でも2人はとても息が合い幸せそうに見えた。
ある日、親父さんの実娘と思しき中年の女性が店にきて千代さんとなにやら談判をしている...
貧乏学生時代、私が間借りして住んでいたのは、江東区深川牡丹3丁目にあった靴屋の2階の四畳半だった。部屋にはまともな自炊設備などなかったから、夕食などは当時の下町にはよくあった安い定食屋で済ませたものだ。私が行きつけの「千代」という定食屋の親父さんは、独特の気品と信念を内に秘めた穏やかな人物であった。技師として長年勤めた石川島播磨重工業(現IHI)を退職後、千代さんという女将と駆け落ち同然の状態で深川に移り住み、町工場の工員や労務者、貧乏学生相手の店を開いていたのだ。元辰巳芸者の千代さんは高名な俳人・水原秋桜子の門弟でもあったそうだから、そこに至るまでのご両人にはそれなりの深い事情があったのだろう。でも2人はとても息が合い幸せそうに見えた。
ある日、親父さんの実娘と思しき中年の女性が店にきて千代さんとなにやら談判をしている場に
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