読む医療—医師が書いた本の斜め読み—
PTSDの深刻さと統合失調症の安易な診断
第24回
鍛冶孝雄
2015年5月1日号
まだ携帯電話が一般的ではなかった頃だが、読書子は早朝の電車で、ある青年と遭遇した。都心とは逆に向う電車だったこともあり、ほとんどの乗客は座っていた。筆者が乗り込む直前から“異変”は始まったらしく、その青年の声が聞える範囲に座る人々は、微妙な表情で視線を落としていた。彼の斜め向かい側に座った若い女性は、笑いを噛み殺すために明らかに体が小刻みに震えていた。すぐに筆者にも“異変”の正体が伝わった。青年は、ありもしない受話器を耳に当て、誰もが知っている高名な人物と会話している。彼は、相手の人物に対して祝意を伝えている。
しばらく彼は、その祝意を端正な言葉で伝え続けた。時折、「えっ、はい、いいえ」と答える。どうやら相手が、謝意を伝えているらしく、彼の言葉の腰が折られる。そして、ついに相手が延々と喋り始めた。彼は神妙にその声に耳を傾け...
まだ携帯電話が一般的ではなかった頃だが、読書子は早朝の電車で、ある青年と遭遇した。都心とは逆に向う電車だったこともあり、ほとんどの乗客は座っていた。筆者が乗り込む直前から“異変”は始まったらしく、その青年の声が聞える範囲に座る人々は、微妙な表情で視線を落としていた。彼の斜め向かい側に座った若い女性は、笑いを噛み殺すために明らかに体が小刻みに震えていた。すぐに筆者にも“異変”の正体が伝わった。青年は、ありもしない受話器を耳に当て、誰もが知っている高名な人物と会話している。彼は、相手の人物に対して祝意を伝えている。
しばらく彼は、その祝意を端正な言葉で伝え続けた。時折、「えっ、はい、いいえ」と答える。どうやら相手が、謝意を伝えているらしく、彼の言葉の腰が折られる。そして、ついに相手が延々と喋り始めた。彼は神妙にその声に耳を傾け、
有料会員限定
会員登録(有料)
この記事をお読みいただくためには、会員登録(有料)が必要です。
新規会員登録とマイページ > 購読情報から購入手続きをお願いいたします。
※IDをお持ちの方はログインからお進みください
【会員登録方法】
会員登録をクリックしていただくと、新規会員仮登録メール送信画面に移動します。
メールアドレスを入力して会員登録をお願い致します。
1ユーザーごとの登録をお願い致します。(1ユーザー1アカウントです)
ログイン
会員登録