医薬経済オンライン

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一筆入魂

本に書く覚悟と、書かれる覚悟

4回目のお盆迎えた雄勝にて

ノンフィクション作家 辰濃哲郎

2014年9月1日号

 今年3月5日、宮城県石巻市内の小料理屋で開かれた会合に招かれたときのことだ。  東日本大震災で、職員24人が亡くなった石巻市立雄勝病院の遺族との懇親会が開かれた。そこに初対面の男性が出席していた。3人の子どもを残したまま行方がわからない、雄勝病院の栄養士、佐々木弘江さん(当時43)の夫、勇人さん(54)だ。  震災から2年経った昨年3月に私が著した『海の見える病院——語れなかった雄勝の真実』には、弘江さんの名は出てこない。遺された子どもを抱えて、取材に応じる心の余裕がないと聞いていたからだ。  会合を終えたあと、私のところにきた勇人さんは、すでに涙声になっていた。  あの本に、妻の名前が1行も出てこないことが、やりきれなかったのだろう。取材は遺族にとって辛いものではあるが、同時に亡くなった職員が病院で必死に命と闘っていた証になる。その証を残してもらえな...  今年3月5日、宮城県石巻市内の小料理屋で開かれた会合に招かれたときのことだ。  東日本大震災で、職員24人が亡くなった石巻市立雄勝病院の遺族との懇親会が開かれた。そこに初対面の男性が出席していた。3人の子どもを残したまま行方がわからない、雄勝病院の栄養士、佐々木弘江さん(当時43)の夫、勇人さん(54)だ。  震災から2年経った昨年3月に私が著した『海の見える病院——語れなかった雄勝の真実』には、弘江さんの名は出てこない。遺された子どもを抱えて、取材に応じる心の余裕がないと聞いていたからだ。  会合を終えたあと、私のところにきた勇人さんは、すでに涙声になっていた。  あの本に、妻の名前が1行も出てこないことが、やりきれなかったのだろう。取材は遺族にとって辛いものではあるが、同時に亡くなった職員が病院で必死に命と闘っていた証になる。その証を残してもらえなか

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