Halmes&Vaccine
長期収載品の崩壊
第1回 〜プロダクトライフサイクル〜
コイツ・ドナン
2013年1月15日号
冬本番を迎えたロンドンにあっても、きょうはとくに寒い。まだ午後3時だというのに、曇天のせいでまるで夜のようだ。この寒さもあってか、私の診療所を訪れる患者は多くはなかった。診察室が冷えているせいで、腰が痛む。カルテに筆を走らせながら、左手で腰を叩いていると、きょう最後の患者が心配そうな眼で、私の顔を覗き込んできた。
「ワクチン先生、腰が痛いのかい。それなら、日本の友人から貰ったいいモノがあるのだが。本当は他人に渡してはダメなんだけど」
そう言うと、鞄から銀色のパッケージに包まれたシールのようなものを差し出した。英国の開業医は、一度診察した患者の健康をその後も維持するのが仕事だから、どうしても親密になる。とくにこの患者とは長い付き合いだから、厚意を無碍に断るわけにはいかない。
「これは、何かな」
患者は笑いながら、手渡されたシールを机の上...
冬本番を迎えたロンドンにあっても、きょうはとくに寒い。まだ午後3時だというのに、曇天のせいでまるで夜のようだ。この寒さもあってか、私の診療所を訪れる患者は多くはなかった。診察室が冷えているせいで、腰が痛む。カルテに筆を走らせながら、左手で腰を叩いていると、きょう最後の患者が心配そうな眼で、私の顔を覗き込んできた。
「ワクチン先生、腰が痛いのかい。それなら、日本の友人から貰ったいいモノがあるのだが。本当は他人に渡してはダメなんだけど」
そう言うと、鞄から銀色のパッケージに包まれたシールのようなものを差し出した。英国の開業医は、一度診察した患者の健康をその後も維持するのが仕事だから、どうしても親密になる。とくにこの患者とは長い付き合いだから、厚意を無碍に断るわけにはいかない。
「これは、何かな」
患者は笑いながら、手渡されたシールを机の上に置
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