この国につけるクスリ 社会保障よもやま話
一部負担金債権の行方
東京福祉大学・大学院教授 喜多村悦史
2011年5月15日号
東日本大震災では、その日のうちに一部負担金徴収猶予の事務連絡が出された。想定外の事態で疲労困憊の地域住民にとっては、現金の持ち合わせがなくても診察・治療を受けられることになり、干天の慈雨であったろう。 事務連絡では、診療を行った病院・診療所などは一部負担金を含めて保険者に請求できる。すなわち、「一部負担金の徴収は保険医療機関の責務であり、勝手に値引きしてはいけない」という“原則”を、例外的に撤廃したわけだ。 そもそも、一部負担金の狙いは、費用の一部を患者に負担させることで、自発的受診抑制を惹起させる点にある。その徴収は受診時に実行したほうが受診抑止効果に勝るということで、窓口での支払いが制度化され、今日に至っている。 しかし、徴収事務が「本当に医療機関の責務なのか」を巡っては、2つの相対立する考え方がある。当局は「医療機関としての義務であ...
東日本大震災では、その日のうちに一部負担金徴収猶予の事務連絡が出された。想定外の事態で疲労困憊の地域住民にとっては、現金の持ち合わせがなくても診察・治療を受けられることになり、干天の慈雨であったろう。 事務連絡では、診療を行った病院・診療所などは一部負担金を含めて保険者に請求できる。すなわち、「一部負担金の徴収は保険医療機関の責務であり、勝手に値引きしてはいけない」という“原則”を、例外的に撤廃したわけだ。 そもそも、一部負担金の狙いは、費用の一部を患者に負担させることで、自発的受診抑制を惹起させる点にある。その徴収は受診時に実行したほうが受診抑止効果に勝るということで、窓口での支払いが制度化され、今日に至っている。 しかし、徴収事務が「本当に医療機関の責務なのか」を巡っては、2つの相対立する考え方がある。当局は「医療機関としての義務である
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