一筆入魂
人に殴られ、そして殴るということ
「おばちゃん」の葬儀で再会した後輩への懺悔
ノンフィクション作家 辰濃哲郎
2010年5月15日号
先月末、高校時代に在籍していた野球部の監督の奥さんが亡くなった。85歳だった。合宿所の寮母を兼任していただけに、実家を離れて寮生活を送っていた私たちにとって、母親代わりだった。卒業後30年を過ぎても、野球部の「おばちゃん」と言えば、監督婦人のこと、で通っていた。 合宿所には野球部全員ではなく、希望者だけだが入寮するので、常に、20人くらいが生活していた。 1年生は毎晩、2年生は3日に1回、炊事当番をこなす。おばちゃんは、辛い下級生時代を支えてくれた恩人でもある。上級生に殴られて青あざを作って炊事場に現れると、慰めてくれるどころか、「きれいに、やられたなぁ」と、細い目から涙を流しながら高笑いを決め込む豪快な人だった。 そのおばちゃんの葬儀で、同級生と久しぶりの再会を果たした。彼らとの一通りの挨拶とご焼香を終えて斎場の片隅に佇んでいると、小柄な男が...
先月末、高校時代に在籍していた野球部の監督の奥さんが亡くなった。85歳だった。合宿所の寮母を兼任していただけに、実家を離れて寮生活を送っていた私たちにとって、母親代わりだった。卒業後30年を過ぎても、野球部の「おばちゃん」と言えば、監督婦人のこと、で通っていた。 合宿所には野球部全員ではなく、希望者だけだが入寮するので、常に、20人くらいが生活していた。 1年生は毎晩、2年生は3日に1回、炊事当番をこなす。おばちゃんは、辛い下級生時代を支えてくれた恩人でもある。上級生に殴られて青あざを作って炊事場に現れると、慰めてくれるどころか、「きれいに、やられたなぁ」と、細い目から涙を流しながら高笑いを決め込む豪快な人だった。 そのおばちゃんの葬儀で、同級生と久しぶりの再会を果たした。彼らとの一通りの挨拶とご焼香を終えて斎場の片隅に佇んでいると、小柄な男が近
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