読む医療―医師が書いた本の斜め読み―
町おこしから見る地域医療の理想
第78回
鍛冶孝雄
2017年8月1日号
小学生までは九州の小さな漁村で育った。今になって思うのは貧しくはあったが、地域のコミュニティは生き生きとしていたな、ということだ。妊婦が出産を迎えると、地域の女性たちは皆で役割分担し、無事な出産に力を尽くした。冠婚葬祭は多くの人々の役割分担ができ上がっていた。野良犬や、野良猫がたくさんいたが、どれにも名前があり、皆で世話をしていた。高齢になると、多くが脳卒中で倒れ、大抵は1週間程度で亡くなったが、介助が必要になると、皆で世話をしたように記憶する。 現在、読書子の私は都会のマンション群の中で暮らす。同じ共同住宅内でさえも、顔見知りはほとんどいない。情報は管理人に頼るが、それも個人情報順守の意識が徹底されて、年々、住民同士の情報共有は少なくなる一方だ。 こうした時代の流れは、実は私の暮らした漁村でも起きているようで、昔の自然発生的な相互扶...
小学生までは九州の小さな漁村で育った。今になって思うのは貧しくはあったが、地域のコミュニティは生き生きとしていたな、ということだ。妊婦が出産を迎えると、地域の女性たちは皆で役割分担し、無事な出産に力を尽くした。冠婚葬祭は多くの人々の役割分担ができ上がっていた。野良犬や、野良猫がたくさんいたが、どれにも名前があり、皆で世話をしていた。高齢になると、多くが脳卒中で倒れ、大抵は1週間程度で亡くなったが、介助が必要になると、皆で世話をしたように記憶する。 現在、読書子の私は都会のマンション群の中で暮らす。同じ共同住宅内でさえも、顔見知りはほとんどいない。情報は管理人に頼るが、それも個人情報順守の意識が徹底されて、年々、住民同士の情報共有は少なくなる一方だ。 こうした時代の流れは、実は私の暮らした漁村でも起きているようで、昔の自然発生的な相互扶助の
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