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時流遡航

夢想愚考―わがこころの旅路

第18回 ─渡辺淳さんとの交流を回想する①─

本田成親

2017年11月1日号

 たまにだが、人生におけるひとつの奇遇のもたらすかけがえのない重みとそれに続く劇的な展開が、出会い直後のわずか4、5秒間の視線のやりとりによって決定付けられることがある。この折の渡辺淳さんとの出会いの場合がまさにそうだった。何の力みも何の身構えもせず、裸のままの姿でこの人となら話せる。一瞬視線を交わしただけで、まだ相手の名前さえも知らないのに、私の胸中には即座にそんな確信が芽生えたのだった。 ただ、そうは言っても、眼前の人物のもつ本当の姿を私なりの心の眼ではっきりと捉えるには、今少しの時間が必要だった。中島敦の『名人伝』の一節ではないが、達人と呼ばれる人は常人とは異なるある種の鋭い気を放つ。それが、名人と呼ばれる域に達すると、気を殺すというか、そういう気配をまったく感じさせない、どこにでもいるごく普通の人の姿に戻ってしまう。 何の前触れ...  たまにだが、人生におけるひとつの奇遇のもたらすかけがえのない重みとそれに続く劇的な展開が、出会い直後のわずか4、5秒間の視線のやりとりによって決定付けられることがある。この折の渡辺淳さんとの出会いの場合がまさにそうだった。何の力みも何の身構えもせず、裸のままの姿でこの人となら話せる。一瞬視線を交わしただけで、まだ相手の名前さえも知らないのに、私の胸中には即座にそんな確信が芽生えたのだった。 ただ、そうは言っても、眼前の人物のもつ本当の姿を私なりの心の眼ではっきりと捉えるには、今少しの時間が必要だった。中島敦の『名人伝』の一節ではないが、達人と呼ばれる人は常人とは異なるある種の鋭い気を放つ。それが、名人と呼ばれる域に達すると、気を殺すというか、そういう気配をまったく感じさせない、どこにでもいるごく普通の人の姿に戻ってしまう。 何の前触れもな

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