時流遡航
夢想愚考―わがこころの旅路
第4回 ─渡辺淳さんとの交流を回想する─
本田成親
2017年12月15日号
電気やガス器具類の普及と木炭用の原木不足に伴い炭焼き業を断念せざるを得なくなった渡辺淳さんは大飯郵便局の請負郵便配達人に転じ、以後31年間にわたってその責務をまっとうされた。請負配達人は正規の局員と違って給料も安く、しかも周辺の谷奥や山奥に散在する家々が配達対象地域であったから、その仕事は想像以上に大変なものだったらしい。 大雪の日、近道をしようと横切った畑の一隅で深い肥溜にはまり、頭のてっぺんまで汚物に浸かりながらも、郵便鞄だけは両の手先で頭上に支えて必死に守った逸話などは、気の遠くなるようなご苦労のほんの一端に過ぎなかったようである。だが、そんな厳しい日々の連続のなかにあっても、渡辺さんが絵筆を捨てることはなかった。「わしゃ、画家なんかやあらしまへん。今も一介の郵便配達人にすぎまへんのや。郵便配達人がたまたま日記がわりに絵を描いてお...
電気やガス器具類の普及と木炭用の原木不足に伴い炭焼き業を断念せざるを得なくなった渡辺淳さんは大飯郵便局の請負郵便配達人に転じ、以後31年間にわたってその責務をまっとうされた。請負配達人は正規の局員と違って給料も安く、しかも周辺の谷奥や山奥に散在する家々が配達対象地域であったから、その仕事は想像以上に大変なものだったらしい。 大雪の日、近道をしようと横切った畑の一隅で深い肥溜にはまり、頭のてっぺんまで汚物に浸かりながらも、郵便鞄だけは両の手先で頭上に支えて必死に守った逸話などは、気の遠くなるようなご苦労のほんの一端に過ぎなかったようである。だが、そんな厳しい日々の連続のなかにあっても、渡辺さんが絵筆を捨てることはなかった。「わしゃ、画家なんかやあらしまへん。今も一介の郵便配達人にすぎまへんのや。郵便配達人がたまたま日記がわりに絵を描いておるい
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