医薬経済オンライン

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読む医療—医師が書いた本の斜め読み—

在宅看取りが進むなかで忘れたくないこと

第99回

鍛冶孝雄

2018年6月15日号

 数年前の初夏、私を含む兄弟は父が暮らす老人保健施設の管理者と、施設の主治医をしている医師と看護師、介護福祉士と長い話し合いをしていた。施設側は父の認知機能が急速に衰えていること、食事をまったくしなくなり、毎日の点滴でいのちが保たれていることなどを私たちに何度か繰り返し、繰り返す度にその状態の詳細さが増していた。私たちは短い質問を挟むが、彼らの説明は質問への回答を微妙にずらしたまま、延々と続く。彼らは私たちに「決める」ことを求めていた。主治医は胃瘻をすればもう少しいのちは続くというようなことを遠回しに語る。「決める」のは胃瘻の可否だが、要は延命医療を続けるかどうかの判断を、私たちに迫っているのだった。 話し合いに入る前に、私は父に何とか食事をさせようと、プリンを匙で掬って口元に持っていったが、彼は毅然として拒む。眼の光は衰えていないよう...  数年前の初夏、私を含む兄弟は父が暮らす老人保健施設の管理者と、施設の主治医をしている医師と看護師、介護福祉士と長い話し合いをしていた。施設側は父の認知機能が急速に衰えていること、食事をまったくしなくなり、毎日の点滴でいのちが保たれていることなどを私たちに何度か繰り返し、繰り返す度にその状態の詳細さが増していた。私たちは短い質問を挟むが、彼らの説明は質問への回答を微妙にずらしたまま、延々と続く。彼らは私たちに「決める」ことを求めていた。主治医は胃瘻をすればもう少しいのちは続くというようなことを遠回しに語る。「決める」のは胃瘻の可否だが、要は延命医療を続けるかどうかの判断を、私たちに迫っているのだった。 話し合いに入る前に、私は父に何とか食事をさせようと、プリンを匙で掬って口元に持っていったが、彼は毅然として拒む。眼の光は衰えていないように思

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