医療保険制度の全体像を考える⑵

現場が望む社会保障制度

医療保険制度の全体像を考える⑵

第44回

ニッセイ基礎研究所准主任研究員　三原　岳

2019年1月1日号

　米国の哲学者、ロールズは『正義論』という本で、社会の格差を論じる方法として、「無知のヴェール」という考え方を提唱した。これは自分の出身・背景、家族関係、財産の状態などをまったく知らない状態に置かれると、社会の構成員はどういう社会的地位にあるのかわからなくなるので、格差是正や機会均等について公平に議論できるようになるという概念だ。　私には「無知のヴェール」を出発点に物を考えるのは難しい面があるが、医療保険制度をゼロベースで考えようという今シリーズの議論を進めるうえではひとつのヒントになるかもしれない。　とくに、医療制度を議論するとき、気を付けなければならないのは細部に嵌り込むことである。１００年に及ぶ歴史を持つ医療制度は複雑怪奇であり、予算や法令、歴史など細かい話を始めれば、延々と議論を続けられる。そして、往々にして細部を知っていること... 　米国の哲学者、ロールズは『正義論』という本で、社会の格差を論じる方法として、「無知のヴェール」という考え方を提唱した。これは自分の出身・背景、家族関係、財産の状態などをまったく知らない状態に置かれると、社会の構成員はどういう社会的地位にあるのかわからなくなるので、格差是正や機会均等について公平に議論できるようになるという概念だ。　私には「無知のヴェール」を出発点に物を考えるのは難しい面があるが、医療保険制度をゼロベースで考えようという今シリーズの議論を進めるうえではひとつのヒントになるかもしれない。　とくに、医療制度を議論するとき、気を付けなければならないのは細部に嵌り込むことである。１００年に及ぶ歴史を持つ医療制度は複雑怪奇であり、予算や法令、歴史など細かい話を始めれば、延々と議論を続けられる。そして、往々にして細部を知っていることが「

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