現場が望む社会保障制度
医療保険制度の歴史を振り返る(3)
第45回
ニッセイ基礎研究所准主任研究員 三原 岳
2019年2月1日号
「少くとも僕の場合は唯ぼんやりした不安である。何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安である」 こういう遺書を残して文人の芥川龍之介が自殺したのは1927年のこと。日本は金融恐慌による銀行破綻が相次ぐ直前であり、不況風に覆われていた時代だった。中国では国民党の蒋介石による中国統一が本格化し、4年後の満州事変につながる日中関係の軋みがスタートする年である。 こう書くと、「歴史の授業で学んだ」と思われるかもしれないが、日本の医療保険制度はまさにこの年から始まり、制度改正を営々と積み上げてきた。その歩みを短い紙幅で書き切ることは困難だが、職業で細分化された現行制度を理解するためにも、医療保険制度史のアウトラインを描くことにしよう。 日本の健康保険が生まれたのは、紡績業や製糸業などの工場で過酷な環境にあった労働者を保護する目的だった。今ではまった...
「少くとも僕の場合は唯ぼんやりした不安である。何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安である」 こういう遺書を残して文人の芥川龍之介が自殺したのは1927年のこと。日本は金融恐慌による銀行破綻が相次ぐ直前であり、不況風に覆われていた時代だった。中国では国民党の蒋介石による中国統一が本格化し、4年後の満州事変につながる日中関係の軋みがスタートする年である。 こう書くと、「歴史の授業で学んだ」と思われるかもしれないが、日本の医療保険制度はまさにこの年から始まり、制度改正を営々と積み上げてきた。その歩みを短い紙幅で書き切ることは困難だが、職業で細分化された現行制度を理解するためにも、医療保険制度史のアウトラインを描くことにしよう。 日本の健康保険が生まれたのは、紡績業や製糸業などの工場で過酷な環境にあった労働者を保護する目的だった。今ではまったく想
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