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時流遡航

哲学の脇道遊行記―その実景探訪

第20回 ー「絶対的客観性をもつ歴史」の存否を考えてみるー

本田成親

2019年7月15日号

 完璧なノンフィクション作品にも思われがちな松尾芭蕉自筆の紀行文『奥の細道』の場合でさえも、その実は多分にフィクション性、すなわち、事実とは異なる芭蕉独自の創作部分が含まれています。そのことについては、生前に偶々ご縁を賜りご教示を仰いだ尾形功、ドナルド・キーン両先生らの研究で明らかにされているとおりです。  まして、他者がある人物の伝記などを執筆するとなると、極力事実に即したかたちで客観的にその人物の足跡を記述しようと思ったとしても、必ずや大きな壁に突き当たってしまうことでしょう。たとえ直接的な取材が可能であったとしても、相手の過去の記憶が曖昧だったり、本当のことを話してくれなかったり、個々の事実の関係に一貫性がなかったりしたら、さらには、事実ではあったとしてもその提示法が不適切だったり、演出や脚色らしきものが含まれていたりし...  完璧なノンフィクション作品にも思われがちな松尾芭蕉自筆の紀行文『奥の細道』の場合でさえも、その実は多分にフィクション性、すなわち、事実とは異なる芭蕉独自の創作部分が含まれています。そのことについては、生前に偶々ご縁を賜りご教示を仰いだ尾形功、ドナルド・キーン両先生らの研究で明らかにされているとおりです。  まして、他者がある人物の伝記などを執筆するとなると、極力事実に即したかたちで客観的にその人物の足跡を記述しようと思ったとしても、必ずや大きな壁に突き当たってしまうことでしょう。たとえ直接的な取材が可能であったとしても、相手の過去の記憶が曖昧だったり、本当のことを話してくれなかったり、個々の事実の関係に一貫性がなかったりしたら、さらには、事実ではあったとしてもその提示法が不適切だったり、演出や脚色らしきものが含まれていたりした

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