死に甲斐 | 医薬経済オンライン

「脇役たち」の矜恃〜被災地からの言付け〜

死に甲斐

第15回

薬剤師：武田雄高

2022年11月15日号

　秋田県北部、大規模な干拓地として知られる八郎潟町。震災の復旧作業に参加してくれたこの町の有志団体メンバーと今でも交流があり、彼らと過ごした居酒屋でのこと。メンバーの1人が腕時計を指差して「んだば、これからスタートすっから10分経って戻んねば様子見に来てけれ」と告げてトイレに向かった。彼らはその後も男女問わず、席を離れるときには必ず一言告げた。　確かに離席する際に一言告げる礼儀もあろうが、それにしても時間指定とは几帳面。以前には見られなかった習慣で、そもそも（失礼ながら）これほどまでに礼儀を頑なに重んずる雰囲気の彼らでもない。不思議に思った私がこれはこの町の流行りなのかと尋ねると「武田さんね、これはウチらのネタなのさ」と皆が笑った。　5年前と2年前の冬の時期、八郎潟町で皆から慕われていたメンバーが立て続けに亡くなった... 　秋田県北部、大規模な干拓地として知られる八郎潟町。震災の復旧作業に参加してくれたこの町の有志団体メンバーと今でも交流があり、彼らと過ごした居酒屋でのこと。メンバーの1人が腕時計を指差して「んだば、これからスタートすっから10分経って戻んねば様子見に来てけれ」と告げてトイレに向かった。彼らはその後も男女問わず、席を離れるときには必ず一言告げた。　確かに離席する際に一言告げる礼儀もあろうが、それにしても時間指定とは几帳面。以前には見られなかった習慣で、そもそも（失礼ながら）これほどまでに礼儀を頑なに重んずる雰囲気の彼らでもない。不思議に思った私がこれはこの町の流行りなのかと尋ねると「武田さんね、これはウチらのネタなのさ」と皆が笑った。　5年前と2年前の冬の時期、八郎潟町で皆から慕われていたメンバーが立て続けに亡くなった。

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