譫妄のリアリティ─私が見た「非現実的現実」

働く脊損者＜オッサン＞

第13回

株式会社グルメ杵屋最高デジタル責任者河上崇陽

2025年4月1日号

　3月、東京高裁は、ある乳腺外科医に対し無罪判決を言い渡した。9年近く前、乳腺腫瘍の摘出手術を受けた女性患者が「術後に医師から胸を舐められた」と訴え、準強制わいせつ罪で起訴された事件だった。患者は術後間もないタイミングで証言しており、譫妄の可能性が一審では指摘されていたが、控訴審では証言の迫真性が重視され有罪に。結局、最高裁の差し戻しを経て無罪が確定した。この間、被告の中学生の息子が自死したという事実も明らかになっている。心より冥福を祈る。　この事件に触れたとき他人事とは思えなかった。私自身、頸髄損傷で救急搬送された際に譫妄を経験している。事故に遭ったのは22年夏。離島で転倒し、ドクターヘリで大学病院の救急救命センターに搬送された。8時間後に緊急手術。意識が戻ったのは深夜の病棟のベッドの上で、体中が点滴やモニターケーブルでつなが... 　3月、東京高裁は、ある乳腺外科医に対し無罪判決を言い渡した。9年近く前、乳腺腫瘍の摘出手術を受けた女性患者が「術後に医師から胸を舐められた」と訴え、準強制わいせつ罪で起訴された事件だった。患者は術後間もないタイミングで証言しており、譫妄の可能性が一審では指摘されていたが、控訴審では証言の迫真性が重視され有罪に。結局、最高裁の差し戻しを経て無罪が確定した。この間、被告の中学生の息子が自死したという事実も明らかになっている。心より冥福を祈る。　この事件に触れたとき他人事とは思えなかった。私自身、頸髄損傷で救急搬送された際に譫妄を経験している。事故に遭ったのは22年夏。離島で転倒し、ドクターヘリで大学病院の救急救命センターに搬送された。8時間後に緊急手術。意識が戻ったのは深夜の病棟のベッドの上で、体中が点滴やモニターケーブルでつながれて

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