東京都庭園美術館とはJR目黒駅を挟んで反対側の権之助坂をずーっと下って橋を渡り、目黒川沿いに進んだところにある目黒区美術館は思っていたより展示スペースが多く、ゆったり鑑賞できる施設でした。



 今開催中の『前田利為 春雨に真珠をみた人-前田家の近代美術コレクション-』(3月21日まで)はSNSで知ったのですが、ここまで来ようと思った理由は告知チラシにあったフランソワ・ポンポンの『シロクマ』です。



 オルセー美術館にある『白熊』をテレビで見たとき、てっきり現代彫刻だとばかり思っていたのですが、オルセーにあるということは19世紀頃の作品です。単純化されたかわいらしいフォルムで一度見たいと思っていたので、これは行かないわけにはいきません。


 これまで日本に西洋美術をもたらしたコレクターといえば、松方コレクションの松方幸次郎と大原美術館をつくった大原孫三郎くらいしか知らなかったのですが、彼らと同時期にこの前田利為も海外で多くの作品を買い求め、しかも自分や夫人の肖像画を画家に描かせたり、パリでみた〝白熊〟を気に入り、作者ポンポンのアトリエを訪れて、今回展示されている部屋に飾るのにちょうどいいサイズのシロクマとバンを注文したそうです。西洋画だけでなく、日本美術の収蔵品も前田家に伝わるものだけでなく、利為が買ったものも多くあります。彼は仕上がりに納得いかなかったことをきっかけに下絵をチェックするようになったとか、「この展覧会にはロクなものがない」など酷評したという話もあり、好みがはっきりした人物だったようです。これまで気に入った絵画を購入するというのは聞きますが、画家や彫刻家に直接注文したというは初めて知りました。


 また、欧州で活躍したという初めてみる画家の作品もあり、当時はきっと芸術に関わる日本人たちがフランスに多くいたのだろうなぁと想像しました。


 前田利為について人物像をネット検索してみても華族、軍人という経歴だけで、こんなに美術に関心を持っていたという記述はないので大正から昭和にかけてこういう人がいたのを知ることができ、またその収集品をいろいろ観ることができてもよかったです。


 ところで、コレクションは当然彼の邸宅に飾られたわけです。その邸宅というのが駒場にある旧前田家本邸の洋館・和館(休館中)なのですが、実は数年前に友人と散策中に寄ったことがありました。その時は建物に注目していて、元の住人についてはどういう人物かまでは気にしていなかったので、今回つながって驚ました。



 こういうことがあるとますます散策や展覧会鑑賞が楽しみになります。