ドイツ文学者・中野京子氏のベストセラーをもとに構成された2017年の『怖い絵展』は大人気でしたが、『あやしい絵展』というのが東京国立近代美術館(5/16まで)で開催されています。『怖い絵展』は一見しただけでは何が怖いのかわからないけど、そこに描かれた物語を知るとゾワゾワするような恐怖を味わえるものも含めた展覧会でしたが、こっちは観た瞬間にただならぬ雰囲気を感じる作品ばかりです。
この「あやしい」と平仮名で表記しているのがなかなかいいです。ことにチラシに使われている文字は、筆書きのように伸ばしたかたちが、やわらかな優しいイメージで、一見すると気を許してしまう感じなのがうまいと思いました。作品展についての前書きにもあるように〝怪しい〟〝妖しい〟〝奇しい〟といずか漢字に限定するとその意味に囚われてしまうでしょう。〝怖いくらい美しい〟とか〝不気味なのに惹かれてしまう魅力がある〟など、すべて観る側に委ねているのがいいです。
今回は主に日本美術で幕末から近代日本の世情が目まぐるしく変わり、まるで違う価値観や物資が一気に押し寄せてきた時代に生み出されたものの中から混沌のまま何かが人々を取り巻き、絵師たちがそれらを独自の感性で具現化していって、美しいというカテゴリーに収まらない作品なのかと妄想しました。
今やお馴染みになってきた河鍋暁斎、月岡芳年、小村雪岱に、青木繁、鏑木清方、上村松園、高畠華宵といったメジャーどころの他にチラシに使われている怖い微笑みを浮かべた『横櫛』で、今回初めて甲斐庄楠音を知ることができたのはよかったです。本の装幀に使われていたのを見たことがあったので、てっきり最近のイラストレーターの作品だと思っていました。そんな前の作品とは思えない新しさを感じました。
またここでも小村雪岱が取り上げられていて、まさにブームになっている感じでしたし、ミュシャやロセッティ、ビアズリーなどをこういう流れで並べているのも興味深いものでした。
作品によっては不気味な怖さがまさっているものもありますが、ここはいわゆる怖いもの見たさという感情に囚われながら鑑賞するのがいいのかもしれません。大正時代に人魚が流行ったとか、当時の世相がわかるのもおもしろいです。
それと4/11までなら「美術館の春まつり」という企画展で、まだ絵画で桜を愛でることができます。