東京藝術大学大学美術館で開催中の『欧米を魅了した花鳥画 渡辺省亭』(5/23まで)は、聞いたこともない名前の画家だし、チラシの花の絵だけではこれまでのよくある日本画かなとあまり興味を持たなかったのですが、久しぶりの藝大美術館ということで行ってみたらこれは本当に当たりでした。



 以前、迎賓館赤坂離宮に飾られていた七宝額絵というのを初めて見たときにこれが七宝なのかとは思いましたが、画家については興味がなかったので、説明があったのかもしれませんが覚えていませんでした。その原画の作者が〝渡辺省亭〟だったのです。今回の展示でその原画を一部観ることができます。超絶技巧としか言いようがない七宝作家・濤川惣助との共同研究による七宝額絵は、渡辺の美しい原画と仕上がり(実物の写真パネル)を見比べるとその再現度に驚かされます。濤川が亡くなるまでこの共同研究は続いたそうですが、この二人だからこその作品だったでしょうし、今技術は廃れてしまっているのかもしれません。戦後迎賓館として修復される前の赤坂離宮のボロボロの室内で、この七宝額絵だけ色褪せることなく、ただ埃に輝きを奪われていたのがきれいになったとき関係者はうれしかっただろうなと思います。


 この展示でユニークなのが、たぶん私のように渡辺省亭を知らない人のために、まず第一会場の大きなスクリーンで彼についての映像を上映してくれているところです。これに音声ガイド機を借りて聴けばもう〝通〟です。このガイド機の解説で熱く語る山下裕二教授の話もおすすめ。


 動物の描写は参考にしたらしい若冲とはまた違う趣で、細部まできっちり描き込んでいないのに羽根の柔らかさとか暖かさを感じられ、とてもリアルでした。彼は鶏ではなく「鳩の画家」と言われるほど鳩を描いたそうです。


 日本人画家として初めて外国へ行きましたが、黒田清輝や吉田博と違って図案家として就職した会社から派遣されてパリに渡ったそうで、滞在中にドガなど印象派の画家たちとの交流したことを示す作品もありました。日本の筆を使って目の前で描いて見せたということですが、驚くドガ達の表情を想像しました。他の日本画とは作品の印象が違うのは西洋画の技法を取り入れているからで、ロンドンなどの展示会で彼の作品はずいぶん販売され、海外でのほうが知名度が高いということです。


 こんなに腕のいい画家の存在が日本で忘れられていたのは、画壇を離れて展覧会への出品をやめてしまったことや弟子はとらなかったのも要因であるようです。こういう発見をもたらしてくれる学芸員の企画にこれからも期待したいです。(残念ながら、現時点で5/11まで臨時休館中)