六本木の東京ミッドタウン・ホールで開催中の『北斎づくし』(9/17まで)は、これまでに見てきた浮世絵展とはまったく違う展示で、今回は北斎の作品で名高い「北斎漫画」、「冨嶽三十六景」、「富嶽百景」の全巻全ページ、全点・全図を並べるというとてもユニークなものでした。会場に足を一歩踏み入れると高い天井の大空間の壁と床にまるで漫画のコマ割りのように拡大されたページがビッシリと貼りめぐらされていて、思わず声が出てしまいました。拡大されたことで初めて気づくような細かい描写を見つけて盛り上がることもできます。元のサイズは今の雑誌より小さめで、描いた北斎もすごいですが、それを板木に彫った彫り師と刷り師の技あってこそだと改めて思いました。何点か初刷りと後刷りがあるので、人気があって版が重ねられたのがよくわかります。また、版元名や発行年などが記されている〝書袋〟というのもあり、今の本の奥付にあたるものかなと思いました。



 北斎漫画は全15篇で1篇ごとに統一されたテーマの絵柄があるというわけではなく、人物・植物・風景など様々なものが散りばめられている絵手本です。言うなればイラスト集。これを写して商品説明のチラシカットに使用したわけではなく、ごく普通の庶民がこれを見て楽しんだようですが、大変な人気で十四、十五編は北斎の死後に編まれて出版され、しかも最後のは点数が足りずに弟子が描いた作品も入れたそうです。


 人々の描写は小さくて細かいけど、線の数は最小限で、それでいて動きや柔らかさを出せているのが驚異的です。福々しい(太った)人々の仕草などいつ見てもおもしろいです。


 他にも「水滸画伝」などの読本も展示されていました。こちらは挿絵のある小説本で、話のおもしろさに彼のこれまでにない描写で評判だったというのは、先月観た映画『HOKUSAI』にもありましたし、チラシに使われている風が吹くシーンも映画で再現されていましたが、こんな一瞬を生き生きと描いた北斎の凄さにただ目を見張るばかりです。



 アニメとしてよく使われる「雀踊り」だけでなく、格闘技の型も同様にパラパラマンガのように動かせそうでした。当時の人は想像力を発揮させ、頭の中で動かしていたかもしれません。ほかに4曲入り『踊独稽古』なる踊りの独習本をもプロデュースしていて、作画と編集が北斎で振付監修は藤間新三郎で出版されているのはおもしろかったです。この踊る人物の絵は2種類のTシャツの〝フンドシタグ〟に使用されていました。



 グッズでちょっと惹かれたのが図録です。定番の形ではなく、新聞仕様になったとても凝ったもので3000円という値段にちょっと手が出なかったのですが、デザインは祖父江慎。さすが遊び心満載でした。