内容に惹かれて、初めて北浦和の埼玉県立近代美術館へ。『美男におわす』(〜11/3)を観てきました。北浦和駅からすぐの広い公園の敷地内にあるので、とても行きやすかったです。こういう環境は実に羨ましい。




 今回の展示は、日本において〝美しい〟と定義された人を性別であまり限定していなかったことがよくわかるものでした。女性ではなく、男性に注目したところが新しい切り口だと思いますが、このジェンダーについて多くの人が語り始めた今ならではだと思いました。


 会場に並べられた古今の作品の作者は、高畠華宵、谷文晁、安田靫彦、山岸凉子、金子國義、喜多川歌麿、鈴木春信、高畠華宵、魔夜峰央、山本タカト、東洲斎写楽、川合玉堂、山口晃などと、ちょっと挙げてみただけでその多彩さがわかると思いますが、構成も年代順ではなく〝伝説の美少年〟〝愛しい男〟〝魅せる男〟〝戦う男〟などの章立てなのがおもしろかったです。つまり同じ章に集められた作品は制作年も制作方法も異なっていて、古典的な日本画の後に現代の作家の見たことのない四天王が目に飛び込んで来たり、その意外性もよかったです。



 そして、芸術という括りの中に今やマンガも当然のように入ってきたなと改めて感じられる構成になっていたのもうれしかったです。もっとも最近のマンガ家の中にはデジタルで作成している人もいるので、今後現代アートの世界と同様に〝原画〟というもの自体少なくなってこういう展示はなくなるかもしれません。マンガを雑誌のような粗悪な紙でしか見たことのない人には、ぜひとも直に見てほしいです。今回埼玉ということで選ばれたのか、あの『翔んで埼玉』の魔夜峰央の代表作『パタリロ!』の初期のものなどがありました。ベタ塗り(黒塗り)を多用する作家ですが、印刷すると多少のムラはなくなるので、ここまできれいに塗られているのは感動すら覚えます。よしながふみや竹宮惠子らの扉絵など一枚の絵画として十分鑑賞に値するものです。


 個人的にはそれらマンガ作家が金子國義、山本タカト、高畠華宵らと同じ空間に選べられているというだけで、とても楽しむことができました。それに谷文晁、安田靫彦などの作品の中からセレクトされたどれもが観たことがないもので興味深かったです。



 今回〝入江明日香〟を知ったことが大きな収穫で、彼女の描く廣目天がこれまで見たこともない姿だったのが衝撃でした。現代作家の作品も多く、楽しめました。


 時代によって変遷しながら人々を魅了してきた美男のイメージが、こういう企画で鑑賞できたのがとてもよかったです。