近頃は海外作品がなかなか来られないせいか仏像展が多く開催されている気がしますが、さすがに立て続けに鑑賞する気になれないです。でも、東京藝術大学大学美術館の『みろく―終わりの彼方 弥勒の世界―』(10/10まで)はちょっとおもしろい展覧会でした。




 メインの作品は実物から最新技術を駆使して、最終的には手作業で再現したスーパークローンの壁画で、平面的な絵は、壁の凹凸までも再現されているので実物と見まごうほどで迫力があります。


 このバーミヤン天井壁画はタリバンにより2001年に爆破された大仏の天井にあったもので、残っていたとしてもまず実物をここまで近くに見ることはできません。


 実は2016年に美術館の向かいにある陳列館で、無料公開で展示されました。ちょうど壁画のある位置、つまり大仏の頭の上から見る景色を前面の大きなスクリーンに映していたので、まるで瞬間移動してその場所にいるかのような気分を味わえました。今回も同様に正面に映像が映し出されているので、こんな長閑な風景の中で、なぜあんなことが起こったのだろうと改めて考えさせられました。宗教絡みのことはなかなかわかりにくいです。でも、ここで生きてきた人々が平穏を望んで、それを具現化したのでしょう。


 この壁画に描かれているのは「天翔る太陽神ミスラ」と言われていて、まわりにはギリシアの軍神アテナと勝利の女神ニケなどがいます。神も仏も一緒だった時代があったのだなぁと八百万の神々に囲まれている日本人としては共感できる気がします。


 大陸を移動していくうちに仏たちの顔形は変貌していったことが、数は少ないですが展示されている仏像でわかります。



 もうひとつ〝莫高窟〟のスーパークローンが素晴らしかったです。そうそう行けるところではないので、これも行った気になれるくらいリアルでした。莫高窟というと井上靖の小説「敦煌」を連想して、この壁の裏に経典が隠されていたのかもと想像してしまいました。




 また、〝弥勒〟からは萩尾望都の『百億の昼と千億の夜』(原作・光瀬龍)が浮かびます。小説は読んでいないのですが、登場するシッタータ、イエス、阿修羅王などが入り乱れる話が、マンガで視覚化されてちょっと複雑でしたがおもしろく読めたのを思い出します。


 展示されている仏像は模刻ですが、KITTEのインターメディアテクで今開催中の『特別展示『仏像工学—追体験と新解釈』から1体出張して来ています。そちらでは他に『アヴェス・ヤポニカエ(7)—日々是鳥日』、『からだのかたち2—東大医学解剖学掛図』の展示があってお勧めです。(インターメディアテクは無料、撮影不可)