JR上野駅の公園口改札口から国立博物館へ向かって、門の前の道を左手に少し進んだ先の交差点に小さな古い建物があります。きっちり大きな扉で閉じられていますが、かつての京成線の駅の出入口で、老朽化や利用客の減少により1997年に廃業した「博物館・動物園駅」が地下に眠っています。気付いたときにはすでに閉められていたので、もっと注意していれば一駅区間でも乗って、ここから出るくらいできたのにと残念でしかたありません。その後何度かイベントで開いたこともあったようですが、それも逃しました。しかし、ついにチャンスがめぐってきました。



 2018年4月に景観上重要な歴史的価値を持つ建造物として、鉄道施設としては初めて「東京都選定歴史建造物」に選定され、改修工事したあと、アートプロジェクトの一環として期間限定のインスタレーション作品『アナウサギを追いかけて』が展示されるという情報を入手しました。実はチラシを読んでもどんなものなのかは、さっぱりわからなかったのですが、あそこに入れるということで、期間限定・定員制というこの無料イベントに付き合ってくれそうな友人たちに声をかけて2019年1月の終わりに参加しました。当日の整理券配布時間を間違えて、1時間早く待ち合わせたのが逆によかったというほどすでに長蛇の列で、入手したのは13:15の券でした。およそ3時間の時間潰しをしなくてはなりませんでしたが、上野界隈なら困ることなく入場時間に戻って、いよいよ中へ。ちなみに現在の扉は東京藝術大学美術学部長の日比野克彦氏デザインです。


 まず、とてつもなく大きな白いウサギが床に半分頭を突っ込んでいるというオブジェの脇を通って階段をおります。改修されたとはいえ、基本的には以前のままの落書きされた壁が残されていますし、床に散らばるのはネズミがかじったように見せた切符の切り屑という凝りよう。そして下のスペースにユニークな姿で、自前のヒゲを蓄えた国立科学博物館研究員のガイドさんが、動物の頭骨のレプリカを手に熱く解説してくれました。そこより下にはいけませんが、ガラス戸越しに見ることができて満足でした。このイベントの様子は今もYouTubeなどで見ることができますが、いつかまたここの扉が開かれるイベントがあったら参加してみたいです。残念ながら、ここのところ特に何も開催される予定はないようですが、2018年に出現した〝アナウサギ〟は2020年の『京成リアルミュージアム』で地下ホームにまで達し、今も下へ向かっているそうです。



 いつかあの扉が開かれたら、アリスの気分で白兎を追いかけてみたいものです。