2019年に上野で公開された『正倉院展』は期間が短いこともさることながら、ちょうど天皇即位の儀などがあって、皇室ゆかりの宝を観ようと大盛況で平日でも長蛇の列だったようです。


 教科書にも載っている正倉院の宝物は、やはり一度は実際に目にしたかったので、10年ほど前に友人を誘って奈良まで行ったことがあります。そのとき、興福寺の大人気の阿修羅像も特設会場で展示されていたので、両方足を運ぶ計画を立てました。


 ホテルと新幹線の安いセットプランを旅行代理店で申し込むとき、選択肢に「奈良ホテル」がありました。いつか泊まってみたいと思っていたので、「あのホテルに泊まれる!」と絶対ここにしてほしいと頼みました。パックツアーは同等クラスの複数ホテルのどれかに振り分けられるので、ダメ元で希望は強調したほうが可能性はあがる気がします。



 一番の目的だった展覧会はどちらも本当にここまで来て、長蛇の列に並んでもよかったと思えるすばらしいものでした。


 しかしながら、それとは別にとても感動したことがありました。それはこだわって泊まった西の迎賓館とも呼ばれた奈良ホテルでのことです。その年はちょうど創業100年目だったのでこれまでの歩みを紹介する展示もありました。昔であれば、天皇やチャップリン、アインシュタインなど多くの有名人が滞在した気軽に泊まれそうにない格式高いホテルだと思うと、何となくオドオドとチェックインして、ツアー特典の飲み物一杯無料クーポン券をラウンジで使うのも遠慮がちになってしまいましたが、「もちろん大丈夫ですよ」とにこやかに若いスタッフが接客してくれ、朝食時にトーストの焼き加減のリクエストにも笑顔でしたし、本館の受付の古い大きな金庫について尋ねたときも快く教えてくれました。(あいにく答えは忘れてしまいましたが…)今までこんなに従業員全員フレンドリーな笑顔で対応してもらった記憶がなかったので、これがホスピタリティというものかと思いました。数年後、また別の目的で奈良に行ったときも友人を口説いて奈良ホテルにし、今度は本館の部屋を満喫しました。



「日本クラシックホテルの会加盟の9ホテル」というのがあってここもそのひとつなのですが、他のホテルにも泊まって見たいものです。