『スキャンダル』(2019年/アメリカ/109分)。監督:ジェイ・ローチ。


(公式サイトから、以下同)


2016年に起きた実話をもとにしている。原題は「Bombshell」。爆弾または不快な事件、という意味のようだ。相変わらず陳腐な邦題だが、見終わって考えると妙訳が難しい。全米屈指のテレビ局「FOXニュース」の元人気ニュースキャスターだったグレッチェン・カールソンニコール・キッドマン)は会社を解雇された後、CEOであるロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)をセクシャルハラスメントで告訴する。そこに、かつて自身も同様の目に遭った看板キャスターのメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)がセクハラ訴訟の加勢をすべく立ち上がり、遂にCEOの辞任を勝ち取るという話だ。



シャーリーズ・セロンは、オスカー(主演女優賞)を取った『モンスター』(2003年)では増量し歯を取って肉体改造した根性の人。ニコール・キッドマンは、『誘う女』(1995年)以来、大のお気に入りである。全盛期は過ぎたが、キャサリン・ゼタ・ジョーンズを加えた3人を別格視していた小生だけに、見逃す手はなかった。


冒頭から早口のセリフと素早い場面転換が続いて、見る者を圧倒する。登場人物が多く、字幕を追っている間にストーリーが先行してしまうことが再三あった。メーガンはテレビ界に転進した弁護士出身の看板キャスター。物語はアップテンポで展開し、しだいに核心に入っていく。


しかし、職場でメーガンの周囲にいる3人(男性1人、女性2人)の立ち位置が最後までわからなかった。この人たちは社員だ。権力者のCEOを恐れず、なぜメーガンに味方するのか。あとで公式サイトを見ると、彼らはメーガンが担当している番組の仲間だった。このところをもう少しわかるように演出・脚色していれば、この映画はもっと良質な作品になった。


ケイラ・ポスピシル(マーゴット・ロビー)は実在しない人物で、この映画で重要な役割を担っているものの、セクハラの場面をどぎつく撮影しないための狂言回しだった。この人だけが架空の人物だけに、文字通り取って付けたキャスティングだった。


シャーリーズ・セロンは、実物に似せようと、メイクだけでなく、声の質まで変えて演じて見せた。本当はもっとハスキーで色気のある声だが、のっけから鼻にかかった話し方をするので驚いた。ニコール・キッドマンは、前述した『誘う女』で地方ケーブルテレビ局のお天気キャスターを手始めに、色仕掛けで中央のテレビ局に進出する悪女を好演した。オスカー女優の共演はめったに見られるものではないだけに、それだけでも一見の価値はある。



でっぷり太ったジョン・リスゴーがいい味を出している。この映画は、オスカーを受賞したカズ・ヒロの特殊メイクが話題になったが、主役のシャーリーズ・セロンに劣らず、エイノルズ役のこの人の醜悪なメイクが最も秀逸である。ジョン・リスゴーは脇でよい演技をする俳優で、見れば、ああこの人かという程度に顔は知られている。演技の達者な人は悪役で真価を発揮することが多い。思い出すところを挙げれば、少し古いがシルベスター・スタローン主役の『クリフ・ハンガー』で残忍な犯罪組織のボスを演じた。


つい先ごろ、ハリウッドの大物プロデューサーがセクハラ訴訟で有罪判決を受けたが、この事件を契機に広まった「#Me Too」運動は、この映画が描いている事件の翌年に始まった。その意味では、この映画をセクハラ問題における恒久的な取り組みの一環、と捉える向きは少なくないだろう。



それはそれで構わないが、映画の完成度は低い。勇敢に立ち向かったグレッチェン・カールソンの描き方が中途半端だし、助太刀したメーガン・ケリーはCEOへの恩義と女性軍への共感の間で葛藤する姿が消化しきれていなかった。この大物女優2人の熱演を軸に物語を構築すべきだった。架空の人物ケイラにスポットを当ててしまい上滑りした感がある。最も印象に残ったのは、出番は少ないがケイラの同僚ジェス・カーを演じたケイト・マッキノンという女優。この人が一番光っていた。(頓智頓才)